回答拒否
第5話 笑顔は気遣い不要のお知らせ
閉塞感が胸をふさぐ。
常に抱いていた違和感に『息苦しさ』と名前をつけられた形兆は、明確にそれを知覚してしまった。
傷口を見て初めて痛みに気付くように、身体に重みがずっしりとのしかかってくる。
朝のHR中、出欠を確認する担任教師が、形兆の隣が空席になっているのをみて怪訝な声を出す。
「砂原は今日も休みかぁ? 届け出は出てないが……あいつ病弱だからなぁ。虹村、見てないか?」
「見てません」
形兆は憮然として返した。
香澄は形兆が脅しを入れてからの一週間、無断欠席を続けている。
担任教師やクラスメイトは、真面目な香澄の無断欠席に首をかしげているが、理由などわかりきっていた。
形兆だ。
バッド・カンパニーの銃口を向けられ殺意を叩きつけたのだ。同じ空間になど居たくもないだろう。隣同士などもってのほかだ。
――これが俺だ。死にたくなけりゃあ、もう俺に関わるな。――
そう囁いたときの、戸惑いに揺れる瞳が目に焼きついている。
いい気味だ。
なにも知らないくせに知ろうとするから、なんの覚悟もないくせに踏み込もうとするからこうなる。
何はともあれ、これで他人に干渉されない日々がやってくる。閉塞感は自覚させられたが、それ以外はいままでと同じ平穏が手にはいる。
形兆の隣には誰も居ない。心地がいいと形兆は思って、しかし本を読むのになかなか集中できずにイラついた。
「兄貴ー、あれっ今日も香澄いねーのか」
億泰は言いながら形兆の机に弁当をどっかと置いて、ほかの席から椅子を引っ張ってくる。開いている香澄の席を使わないのは、いつ来てもいいようにという配慮だろうか。
形兆は億泰を無視して本を開く。そんな形兆に億泰は「つれねーなァ」と唇を尖らせ、弁当を食べ始める。
不意に教室がざわついた。「おはよう」などと聞こえる。
無視して本の活字に思考を押し流していると、隣の机に学生鞄がとこんと置かれた。
いや――そんな。まさか。
嫌な予感がして、形兆は無意識のうちに本から視線を移して隣を見上げていた。
「おはよう、虹村くん。久しぶりでなんだけど、よかったら一緒にご飯食べない?」
隣の席のクラスメイト。砂原香澄が、屈託のない笑みを形兆に向けている。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!