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□幸せな時間はまだこれから



二月一四日。
学校が終わるとすぐに、日本の拠点として置いてあるヴァリアー邸に綱吉が大荷物で乗り込んできた。ちょうど日本での仕事があり屋敷にいたザンザスの部屋に、勝手知ったるなんとやらの如く入り、備え付けられているキッチンに閉じこもった。



「おい…綱吉…」

「キッチンには立ち入り禁止だからね」



ザンザスが声をかけるとそう返事が返ってくる。
来るなり挨拶も抱擁もなしに、キッチリと閉じられた扉の向こうで何やらやってるようだが、入るなと言われたら入るわけにもいかない。ザンザスは溜め息をついて書類に目を走らせた。時折カチャカチャという音や小さく何事かを呟く綱吉の声が聞こえていたが、ザンザスは聞かないふりを決め込んだ。


そうしてどのくらいか時間が経った頃。
何やら派手な音と共に、悲鳴とも叫びとも取れる綱吉の声が聞こえてきて、流石にザンザスも吃驚して扉を蹴破る勢いでキッチンに入った。



「綱吉っ!」

「うわあああっ!」



綱吉の絶叫と一緒にグシャッと音がした。

グシャ…?…って何だ?と思うザンザスの視線の先に、見事に綱吉の手で潰された物体が目に入った。







「…で?」

「今日、バレンタインだからザンザスさんに手作りチョコあげようと思って…」



うるうる潤む瞳で綱吉はザンザスを見上げる。ザンザスがいきなり入ってきて驚いた綱吉は、せっかく完成間近だったチョコケーキを自分で潰してしまった。その前にチョコクリームの入った器を転んですっ飛ばしたらしく、キッチンの中も綱吉もチョコまみれだ。酔いそうなぐらい甘い匂いと惨状にザンザスはめまいがしそうな気がする。



「お前が俺の為に作ってくれるのは嬉しいが…。そもそも何でわざわざ俺の部屋で、しかも当日に作るんだ?」

「だ…だって…」




実はちゃんと数日前から作業していた綱吉だが。
家で作っていたら、完成した端からランボとリボーンに食べられた。
気を取り直して学校の調理実習室を借りて作っていたら、獄寺や山本、雲雀に何故か骸まで現れて邪魔をする。
ヴァリアー邸のルッスーリアの部屋を借りたら、ベルやマーモンがちょっかいをかけてきて作れない。
だからザンザスの部屋が唯一、邪魔も入らず他の人に食べられる事もなく作れると思ったと綱吉は説明した。

あのカス共が…とザンザスは舌打ちするが、そんな邪魔があろうとも自分の為にチョコを作ろうとしてくれた綱吉には嬉しさが込み上げる。



「もう少しで完成だったのに…潰しちゃったじゃんか」

「いきなり大音量と大声出しゃ吃驚するだろうが…泣くな。それに…これでも充分だ」



ザンザスは綱吉が潰してしまったチョコケーキを指で一欠片摘んで口に入れる。



「甘ぇ…」



綱吉の腕を掴んでそこについたクリームも舐めとる。



「こっちも甘ぇ…。だが、悪くない」



ついで頬についたチョコを舐めると綱吉が真っ赤な顔で硬直する。固まった綱吉の手を取って、潰して指についていたチョコを綱吉の指ごと口に含むと、瞳は潤んだままで恥ずかしいのかふるふる震え小さく声を零した綱吉に、ザンザスの理性は簡単に吹っ飛んだ。






チョコまみれの綱吉を思う存分堪能したザンザスは上機嫌で、夜の仕事に出かけていく。それを布団の中から見送って、綱吉は溜め息を一つ。



「こういうベタな展開になるとは思わなかったなぁ…」



チョコプレイって言うのかアレも…と、ザンザスにされた色んな事を思い出して綱吉は赤くなる。



「…でも…」



枕元に置かれた高級チョコと、綺麗な小さな箱。
箱の中身はすでに身につけている。間違いなくオーダーメイドで作られただろうそれは、ザンザスが持つ銃を模した小さなペンダント。クロスの部分は紅い宝石で出来ているらしい。



「えへへ…ザンザスさんからもプレゼント貰ったし幸せだなぁ〜」



まあ普通女の子に拳銃型のペンダントってどうなんだとも思うが、何となくザンザスらしいとも思うし、これはこれでザンザスを感じられるものなので本当に嬉しいと綱吉は感じる。



「ザンザスさん…大好きです。早く帰ってきてね…」



呟いて目を閉じる。

次に目を覚ましたらザンザスが傍にいるだろうと確信しながら、綱吉はゆっくりと睡魔に身を委ねた。

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あきゅろす。
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