なまえ1 窓から見えるいつもと変わらない景色。どのくらいこの景色を見てるんだろう。 それくらい長い間、ここにいる。 でも、あとどのくらい見れるかも、わからない。 風がふいてカーテンが風になびいた。 「こんにちは」 「…また来たの」 このところ窓から入ってくる少年。 全体的に服が緑で、確か黒曜中…だったかな。の学ランを着てる。頭は…これ……どうなってんだろ? あと、右目が変わってる。 この間、何で(ここ1階じゃないのに)窓から入ってくるのか聞いてみたら、「何となくです」と流されてしまった。 右目が変わってるのも関係してるのかもしれない。 「今日も良い天気ですね」 この人との会話はいつも唐突に始まる。 「名前は食べ物、何がすきですか?」 「…パイナップル?」 「・・・何で疑問系なんですか」 え…だって君の頭がそれっぽいから… 何て言えないに決まってる! 「なるほど」 「ええ!?今、私の心読んだ?!」 私、口には出してなかったよね? 「クフフ…名前の考えていることなんて、手に取るようにわかりますよ」 そう言って微笑みながら私のベッドの脇に座る。 私ってそんなにわかりやすい…? 「…今日は顔色が良いですね」 そっと手が頬に触れる。さっき外からきたからか、手が冷たい。 「……冷たい」 「じゃあ名前が暖めてください」 そう言って彼は私を抱き締める。ちょうど頬にあたる髪がくすぐったい。 「くすぐったいよ」 でもそんなことはお構いなしに、彼は私の髪を手に取って遊び始める。 「名前の髪は綺麗ですね」 「そんなことない…。…最近あんまり手入れも出来てないし」 「クフフ」 相変わらず独特の何か変な笑いをしつつ、私から少し離れて顔を向き合わせる形になる。最近は見慣れてきたけど、相変わらず綺麗な顔をしてると思う。 「嘘です」 「…は?」 「髪だけじゃありませんね。名前の全てが、でした」 ニッコリと。 そんなことをサラッと言うものだから、思わず真っ赤になってしまう。 そこに追い討ちをかけるように、彼の顔が近付いてきた。って、え…ちょっ、待った! 「名前ちゃん、調子はどう?」 「ぎゃあ!」 もう少しで唇が触れる、と思ったところで看護士さんが入ってきた。だから思わず彼をつきとばした…と思ったのに、姿が見当たらない。 「…あれ?」 「?どうしたの、名前ちゃん。顔赤いわよ?熱でもあるのかしら…」 そう言って看護婦さんが体温計やらを準備している間に、窓の外を見てみると、案の定、彼は窓の外にいた。 ものすごい笑顔でこっちに手を降りつつ、大声で叫んだ。 「名前ー!!今日は帰りますが、明日も来ます!!愛してますよー!!」 彼は看護婦さんに見つかりたくないのか見つかりたいのか…。良くわからない。 というか、そういうことを大声で叫ぶな! でも、やっぱりうれしいから 「……また、ね」 聞こえないだろうけど、手を振りながら返す。 それを見た彼は満面の笑みでもう一度私に手を振った。 …何となく。何となく、胸騒ぎがした。 だから、口を動かすだけで彼に伝える。 『大好きだよ』 → |