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コンシェルジュの憂鬱。









それから私は表情の作り方を覚え、人との接し方を覚え、教養を身に付けた。

精神科にももうほとんど行く事はなく、「普通の人」になれただろう。

愁さんと会った頃の栄養不足の名残も消え、背が伸びて口調も振る舞いも変わった。

流石に分別も付き、愁さんにはもう会えないと諦めつつも、心の何処かでは会いたいと言う気持ちが膨れ上がっていた。






それから12年後――上司に書類を渡される。


藤堂愁 28歳 5406号室 購入 入居来月初旬――


どれだけ時間が立っていても分かる。写真は、あの男の人だった。





一瞬頭が白くなって、徐々に喜びが湧いてくる。

ああ、会える……

相手は勿論私のことなんて覚えていないだろう。

むしろ、忘れていて欲しい。

だけど、…私は忘れられなかった。
12年間、忘れたことなんて一度もなかった。
何度あの頃の自分を罵ったか。

彼の役に立ちたい。

親しくなりたいだなんて、贅沢すぎることは思わない。


ただ、彼の役に。






さらに時間が経ち現在、私は彼の少しだけでも役にたっていると思いたい。

入居して暫くは、用などなにも言いつからなかったが、一ヶ月程立つと私にだけ用事を下さるようになった。

おそらく、同僚たちがそれとなく下心を見せたからだろう。

勿論彼らも普段そんなことはしない。
だが藤堂様にはそういった魅力があるのだ。
異性でも、同性でも惹き付ける。
逆らえないカリスマ性。

その点、私は惹き付けられても隠し通した。
私程度が彼と関係を結べるなんて想像したこともないからだ。

ただ、顔を見れるだけで十分すぎる程だった。

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あきゅろす。
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