コンシェルジュの憂鬱。
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私が自分から中に入り、勝手に死んだと説明していたらしいが、洗濯機の扉にガムテープを張った後があった事や、私の身体中の怪我を見れば一目瞭然。
母と恋人は警察に連れていかれ、私は施設に移った。
その頃既に表情はなく、やはり施設でも、転校した先の学校でも気味悪がられていた。
大学病院の精神科に週に二回、通院する事になり、それ以外は学校と施設の往復。
残りの時間はひたすら勉強した。
何かを学ぶ事は唯一楽しくて、病院に行くバスの中でも参考書を手放さなかった程だ。
そこで会ったのが、藤堂様。
片道一時間半のバスに、いつも同じバス停から乗って、同じバスで降りる人が居るのは知っていた。
その人がとても整った顔立ちをしている事も。
だが興味はなかったし、あちらも自分に興味はないだろうと気にも止めなかった。
ある日、バスに乗ろうとしたとき回数券を忘れたことに気づいた。
お金は受診料しか持っていない。暫く困って、バスを降りようとしたときに声をかけられた。
「もしかして財布忘れた?」
いつも同じバス亭から乗る、あの男の人だった。
「………。」
私は少し黙った後、頷く。
「そう。」
男の人はそれだけ言って、二人分金を払う。
意味が分からなくて顔を見上げると、男の人は少し笑って私の手を引き、一番後ろの座席に座らせる。
「いつも一緒のバスだよね。今日も病院?」
人好きする顔で笑った男の人に、頷く。
どうやら認識はされていたらしい。
それから男の人――愁さんとの交流が始まった。
といっても私は殆ど頷くか首を振るかだけ。
教えて貰った愁さん、という名前を呼んだこともない。
バス代のお礼も暫く経ってからしか言えなかった。
私が早くからバス停に居るからか、愁さんもバスが来るより大分早くきて、
勉強を教えてくれたりした。
かと思えばただ黙って隣に居る時も、色々と話を振って私を楽しませてくれる時もあった。
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