コンシェルジュの憂鬱。
5
彼はなんと住人の方からお預かりしているワインを、昨夜女と空けてしまったとのこと。
開いた口が塞がらない。
「いいだろう、買うと言っている!どうせバレやしない、」
恐らく経費で買うつもりだろう。
十数万のワインを。
「万が一、お気付きになられたらどうするのです?大問題になりますが…。」
勿論顔は苦笑のまま。
「そういうのを何とかするのがお前らの役目だろう!」
「いえ、申し訳ありませんが、私共の仕事は住人の方々にいかに快適に過ごして頂くかです。」
「俺も本来ならここに住むような人間なんだぞ!俺に快適に過ごさせようとは思わないのか!?」
…意味不明だ。
上司はどうやらかなりいい家の出身らしいが、実質縁を切られた状態らしい。
本来自分がされるべき気づかいを他人にやらなければならないことに、かなりプライドを傷付けられるのだろう。
「では、こちらに住まわれてからお言いください。誠心誠意働かせて頂きます。」
次は微笑みながら言う。
これで切れたのだろう、私の事務机の上を滅茶苦茶にして出て行った。
「斉賀さん…ありがとうございます。」
「本当!スッキリしました。」
「困ったものですよねー…。」
「ワイン、手配しておきましょうか。どうせご自分ではしないでしょうから。」
その場に居た者達が、言いながら机を片付けてくれる。
「ありがとうございます。そうですね、お願いして宜しいですか?」
「はい!三嶋様にはお知らせしますか?」
「ええ、そちらもお願いします。誤って割ってしまったので、同じ物を用意すると。勿論お詫びの品も忘れずに。」
それから各自自分の仕事に戻り、私は休憩にでる。
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