コンシェルジュの憂鬱。
30
「明人は可愛いね。」
「いえ、とんでもございません。」
「可愛いよ。」
クスリと笑いながら言われる。
「俺が、同じ様に女性にお酒を作ったのか気になるんでしょう?」
これ以上ない程顔が赤くなるのが分かった。
「……いえ、…」
「おや、違うのか?」
「………いえ…」
「…ふ。」
少し笑われて、藤堂様が距離を詰めた。
目元の辺りに軽くキスをされる。
「仕事以外で誰かに酒を作った事なんてないよ。」
からかう様に、だけど優しく言われる。
……本当だろうか?いやまさか。
藤堂様程の人が、そんなはずがない。
真に受けとめたら生真面目で詰まらない人間だと思われる。
そう考えているのに、顔が火照るのは止められなかった。
「……っ、」
何も言えずにいると、また笑う気配がして藤堂様が言う。
「もうグラス空だね。明人。次は何が飲みたい?」
「……申し訳ありません、ありがとうございます。藤堂様のお勧めをお願いして宜しいですか?」
何とか返す。
待つ間の数分、どちらも喋る事はなかった。
心地良いような、気恥ずかしいような沈黙のあと、今度は海の様な碧を出される。
「綺麗…ですね。」
「ありがとう。」
「頂いても宜しいですか?」
「勿論。」
一口飲むと、爽やかな味が広がった。
「美味しいです…。先程とはまた違った味わいですね。」
「明人はどちらが好み?」
「そうですね…、どちらも美味しくて決めがたいのですが、強いて言えば爽やかな方が。」
「なら、次はユイーナにしようか。色もホワイトで綺麗だよ。」
「楽しみです。ですが…何度もご迷惑ではないでしょうか。」
「全然。勿論、明人がやはり酒が苦手だったら別の物にしよう。」
「いえ、藤堂様が作って下さるお酒は美味しくて飲みやすくて、好きです。」
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