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コンシェルジュの憂鬱。
29


「…ん、完成。どうぞ?」

作り始めてから、数分。
微笑みながら言われ、はっとする。

…み、いま、今見惚れていたの気付かれていないはずだ。
気を抜いてしまった。


「…綺麗な、色ですね…。なんと言うカクテルなのですか?」

「アフロディーテ。」

「…アフロディーテ=ビーナスでしょうか。」

藤堂様は感心する様に此方を見る。

「流石。良く知っているね。」

「ありがとうございます。藤堂様は何をお飲みになりますか?」

用意しようと席を立つ。

「ああ、悪いね。そこのウイスキーを頼めるかな。」

「畏まりました。」

近付くと、独特の三角形が見えた。
……これ、モートラック70年物では…。

700mlの物も200mlの物もある。恐らく200万円はするだろう。

…表情を変えるべきではない。
藤堂様にとって、これは普通なのだ。

「…、グラスも此方に失礼します。素晴らしいですね。70年物ですか。」

「ありがとう。知人がゴードン社に居るだけだよ。」

グラスに注ぐ。

「では明人、乾杯。」

「乾杯。藤堂様、頂きます。」

カクテルは、透明感のある薄いピンク色だった。

下にいく程色が濃くなっていて、グラデーションも美しい。

傾けるのが勿体ないな…

そう思いながらも頂いたそれは、思っていたより甘くて美味しくて、どんどん口が進んでしまう。

「…美味しい……。とても、美味しいです。すごく飲みやすいですし。」

「良かったよ。」

にっこり微笑まれて、少し顔が火照る。

誤魔化す様にまた飲むと、再び笑われている気がして更に赤くなった。



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