コンシェルジュの憂鬱。
28
結局、並べられていた結構な品数の料理をほとんど食してしまった。
「御馳走様でした。とても美味しかったです。」
「御馳走様。本当に。ここのシェフは腕がいいね。」
「ええ、社長一押しのシェフ達なんです。藤堂様が褒めておられたと、伝えておきます。」
かなり喜ぶだろう。
あの人達は藤堂様の隠れファンだ。
「ああ。とても美味しいけれどサービスはもういい、とも頼むよ。」
「……畏まりました。」
サービスなんてしてたのか…。
食事が終わり、ソファに移り食後の一杯を頂く。
明日は休みなので、私も藤堂様もお酒だ。
藤堂様の部屋にはミニバーがあり、そこにも多種に渡る酒が置かれている。
一応、シェイカーなど器具もあるのだが、なんと藤堂様自らカクテルを作って下るという。
「宜しいのですか?」
「勿論。明人、リクエストはある?」
「申し訳ありません…お酒には余り詳しくないのです。」
保存の仕方や高価なお酒の知識はあるが、
お酒はどうしても母やその恋人のイメージが強く、進んで飲もうとは思えなかった。
「ああ、そうなのか。なら酒は止めてコーヒーでも煎れようか?」
「いえ!是非、頂きたいです。」
藤堂様が作って下さるというのに、勿体なさすぎる!
少し必死すぎたのか、クスリと笑われた。
「そう?」
「、はい…。その、宜しければ。」
「なら飲みやすいのを作るよ。ライムは好きかな?」
「好きです。」
料理を作る時に使ったが、香りも味もとても良かった。
藤堂様は私の返事を聞くと、少し微笑んで迷う事なくいくつかのボトルを取る。
「…慣れていらっしゃいますね。」
「ああ…学生時代に少しバーテンダーをしていたんだよ。」
「そうなのですか。」
私には何をしているのか分からないが、流れる様な動作に気を抜いたら見惚れてしまう。
……当然、付き合ってきた女性にも作ったのだろうなんて、考える資格は私にはない。
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