コンシェルジュの憂鬱。
26
リビングに通されると、途端にいい匂いがする。
食事はまたも和食だった。ここのシェフが作ったのだろう、懐石料理が美味しそうに並んでいた。
「…和食、お好きなんですか?」
「好きだよ。というより、色々な国に行くからね。大体その国々の料理を食すようにしているんだ。」
なるほど、と思った。藤堂様は世界で活躍なさる方だから、それこそ沢山の国へ行くのだろう。
それからは藤堂様の行かれた国々の話しや、失敗談まで面白おかしく話してくださり、気まずい事もない楽しい食事だった。
「藤堂様、日本生まれだったのですか。」
「一応ね。7才の時、父とフランスに渡ったから。」
「フランスにも…。」
「祖父母は日本に残っていたから、よく日本にも来ていたけど。」
どきっとした。
藤堂様は、お祖母さんのお見舞いに病院へ通っていたから。
「それからは、ずっとフランスに居らしたのですか?」
藤堂様は首を振られた。
「幼少時代、引っ越しが多くてね。ドイツやアメリカ、中国にも行ったかな。転々と。」
藤堂様、何ヵ国語を話せるのだろう…。
「羨ましいです。私は日本から出た事もありませんので。」
「いや、俺はそっちの方が羨ましかったよ。骨を埋める覚悟で一ヶ所に留まりたかったからね。」
少し茶化していい、私も少し笑った。
「明人は、どこか行ってみたい国はあるのか?」
「はい。以前、フランスを進められまして。少し調べる内に、興味が湧きました。」
「確かに彼処は素晴らしい。」
「シャルトルのノートルダム大聖堂を自分の目で見てみたくなってしまいまして。」
「そうなのか?俺もシャルトルの大聖堂が一番好きだよ。」
優しく目を細められ、嬉しくなる。
「だけど地図では分かり難い道ばかりからね。初めてでは行きづらいだろう。良ければ案内するよ。」
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