コンシェルジュの憂鬱。
25
焦った瞬間、ドアが開いた。
「いらっしゃい、明人。仕事お疲れ様。」
「っいえ、藤堂様もお疲れ様です。申し訳ありません、お疲れの所に。」
表情は変えないが恥ずかしくて、顔を見れない。
藤堂様の首元を見ながら返事を返す。
「いや、俺が呼んだのだしね。明人こそ、仕事が終わって直ぐだなんて悪かったかな。」
「いえ、そんな!」
信じられない程嬉しいのに!
「それから此方、一応お礼の品なのですが、」
失礼だと思いつつも、視線は変えられないまま、紙袋を渡す。
世界でも人気な、有名和菓子店の人気セットだ。
「ああ、良かったのに。でもありがとう、和菓子は大好きなんだ。頂くよ。」
よかった。藤堂様は日本の食がお好きらしいし、正解だったみたいだ。
「……明人、どうして俺の目を見ないのかな?」
と、当然、藤堂様も気付くに決まっているが、そこは察してほしい。
だって背を流しに来るということは、そういうことではないのだろうか。
いや、藤堂様なら理由くらい察しているだろう。
証拠に少し笑んでいるのが気配で分かる。
「…いえ、あの、」
「明人の綺麗な黒眼が見たいな。…此方を向いてくれないか?」
顔を見ろと言うことだろう。だけど今顔を合わせると、表情を作れる自信がなくて、目を合わせられない。
動けずにいると、藤堂様の手が頭の後ろ、首の直ぐ上に回った。ゆっくり、首筋をなぶる様に撫でられる。
「あきひと。」
その声には逆らえなくて、恐る恐る視線を上げる。
……私の眼が綺麗なんて嘘だ。藤堂様のブルーより美しい瞳なんてない。
「いい子だね。おいで。
長々と玄関に居てしまった。食事はまだだろう?」
目を細めて笑ったあと、何事もなかったように中へ促され、
私も失礼致します、と呟いてお邪魔した。
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