コンシェルジュの憂鬱。
21
シャワールームから出るともう8時。引き継ぎをしなければならないので、自由に出来るのはあと30分しかない。
コンビニ行って、朝ごはん買って…コンビニ行くの辛いなあ、と考えていると、後ろから声をかけられた。
「あっ斉賀さん!おはようございますー。」
「っええ、お早うございます。」
「あれ?シャワー浴びたんですが?斉賀さんが事務室のシャワーなんて、珍しいですね。」
「ええ、ちょっと久しぶりに借りてしまいました。」
…彼女は知らないのだろうか?みんな一斉に夢中になった藤堂様のお話だ、もう完全に廻っているものと思ったが。
「そうなんですかー。あ、そういえば今からコンビニ行きますが、何かありますか?」
「わ、本当ですか?ありがとうございます。朝食を適当にお願いできますか?」
「はーい、了解です。それじゃ、行ってきますね。」
いや、彼女が知らないだけかもしれない…と思ったが、何故かみんな知らない様だった。クリーニングを請け負った人が黙っているのかもしれない、とも思ったが、そういう人物も居ないようだ。
気になったが、まあ広まってないなら喜ぶべき事だろう。
私にとっては一生の大切な思い出だが、藤堂様にとってはただの一夜。
それでも私が抱いて頂いたと解れば、他の同僚もまた藤堂様にとって煩くなるだろう。彼の迷惑にはなりたくない。
20時5分前。今日一日、地獄だった。立つのも辛いし、歩くはもっと辛いし、走るなんて論外。
表に出した積りはないが、上司はもしかすると気付いていたかもしれない。
何かとかなり走らされたからだ。
ああ、早く帰りたい。だけど帰路の時間を考えると、帰りたくもない。
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