コンシェルジュの憂鬱。
15
翌日。出勤する前にシャツをクリーニングに出しに行く。
職場で出してもいいが、たかが数百円でも職権乱用だ。
仕事をしながら、藤堂様がいらしたらどんな顔をすればいいか分からず焦っていた。
が、その日、藤堂様に会うことはなく。
がっかりしたような、ほっとしたような感情で帰路に着いた。
そして次の日、20時前、藤堂様が帰宅された。
私はかなり緊張していたが、いつも通りに振る舞えたはずだ。
藤堂様はご自身に変な感情を向けられるのを嫌うから。
藤堂様もいつも通り「ただいま」と言ってくださり、私は交代の時間だった事もありそれからすぐに帰った。
帰宅途中、事務室にあるクリーニングから返ってきたシャツを思いだし、やっぱり自分は冷静じゃなかったと落ち込んだ。
しっかりしなければ。
そして翌日の朝、昼間の者と交代していると
「昨夜斉賀さんが帰ってすぐ5403号室の藤堂様から内線があったそうですよ。」
と伝えられた。
「ああ、クリーニングのことだろう。何と言っていた?」
「今日、仕事が終わり次第持ってくる様にとの事です。今日はご自宅で仕事をなさるそうですよ。勝手に部屋に入っていいと。」
仕事が、終わってから…。
「わかった。ありがとう。」
仕事中にではなく終わってからと、あの日のことが藤堂様にとって、まるでプライベートのようで落ち着かなくなる。
腕時計をバレないよう何度も見て、20時になったと同時に上がった。
急いでシャツを取りに行き、制服はそのままで54階に。
私服に着替えて藤堂様に変に思われるのは嫌だった。
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