9
黄色い線を境界に、彼はしばらく線の向こうの白衣の男と視線を交わらせた。
男も絶世の美少年に見つめられても、視線を逸らさない。
それどころか、唇に微笑を刻んでいた。
彼は小さく息を吐き、首を僅かに動かした。
男の視線を拒んだのだとわかった。
戻るよ。
もういいの。
彼は頷き、黄色い境界線に背を向け、歩き出した。
「自分の作品が穢されたご感想は如何なものかな?」
彼は足を止めた。
数メートル向こうの黄色い境界線の中にいた筈の白衣の男が、彼の眼前にある木にもたれかかっていた。
僕は素早く彼の前に飛び出した。
長い髪を項辺りで適当に纏めた、痩躯の男は軽快な口調で続ける。
「いや驚かせて失敬。私は一応国家の走狗を生業にしているが、仕事にはそこまで忠実ではないのだヨ。だから、君を警察に突き出すなんて無礼で無粋なことはしない」
彼はつまらなそうに男を見た。
仰有る意味がよくわかりません。
「あのアート、君が創ったんだろ? それとも、こっちの“天使”?」
男は彼を指差し、数秒後その指を僕に移動させた。
彼の体が緊張で強張るのがわかった。
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