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 (ああ、今思い出しても虫酸が走る)

 白衣の男は唾を吐きたい衝動を堪えた。

 (あんな駄作と、“天使”の作品が同じ舞台に並べられるなんてサ)

 ふと、あの手紙のことを思い出した。

 (天使になりたい…か)

 しばらく動きを止めた男は、やがて唇に冷笑を刻む。

 「バカじゃないの…」

 白衣の男の呟きを聞き咎めた捜査員の一人が、怪訝な視線を向ける。

 男はいつものどこか軽薄な笑顔を浮かべ誤魔化した。
 捜査員の向こうには張り巡らしてある“立入禁止”のテープがあった。

 黄色いテープの向こう側には、野次馬の姿がちらほら見えた。

 スーツ姿のサラリーマン。制服姿の男女。会社や学校が終わったついでに噂のショッキングな事件現場を覗こうとする暇な輩共だ。

 (こういう奴らは一度腐乱死体と抱き合わせたからもう二度と事件現場に足を踏み入れようとしないだろうな)

 男は好奇で目を輝かせる暇人を何気なく眺めた。

 その中の一人、濡れ羽色のブレザーを着た美しい少年に視線を縫い止められる。

 妖しい幽玄の美を持つ少年は、視線を黄色いテープの向こうから白衣の男へとゆっくりと移した。

 少年の視線と、男のそれが交錯する。

 その瞬間、男の心臓が大きく高鳴った。

 頭に言葉が奔流する。

 (美しい)

 (この子だ)

 (この子こそ“天使”だ)

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