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「…怨恨の可能性は? いくら何でもこれは……」
白衣の男は大袈裟に肩を竦めた。
「わかるワケないでしョ。まだ身元どころか、性別も判明してないンだから」
「和泉崎さん!」
一人の警官が小さな透明な袋を掲げて走ってきた。
「あの死体の周辺に、こんなものが落ちていました」
それは血塗れのメモ用紙だった。
ピンクの花柄の縁取りがされていて、若い女の層に人気がありそうなデザインだ。
紙面には返り血のような紅い玉や、放射状になった紅い模様がコーティングされていた。
その文字はそんなメモ用紙の真ん中に血で書かれていた。
【 天使に なりたい】
「A関連だな」
それを見た和泉崎は即座に断言する。
「…どっかの妄想狂か、自己顕示欲が強い人間の犯行という可能性もあるでしョ」
白衣の男が和泉崎の予想を遠回しに否定した。
その眼は“天使”という血文字の単語に釘付けになっている。
「どちらにしろ、マスコミ対策が必要だな」
和泉崎は嘆息した。
姿勢を上げると、ズタズタにされ、磔刑のように木に貼り付けられた死体の、二度と光を通さない眼と視線があった。
「待ってろよ。君を殺した“天使”を必ず狩るから」
和泉崎の呟きに、白衣の男が反応し、メモ用紙から視線を剥がし、和泉崎を不思議そうに見た。
「一旦署に戻るから、何かあったら電話してくれ」
「わかってるヨ。しーちゃん。洗いこみ頑張ってねェ」
男はひらひらと手を振った。もうその興味はメモ用紙より、和泉崎より貼り付けられた死体にあった。 何度見ても醜い死体だ。
男は視線を下ろし、辺りに無造作に転がる死体と貼り付けられたそれを見比べた。
少年達の傷にはうっとりする程無駄がない。
美しい、完成された芸術だ。
この6人を殺した犯人は間違いなく“天使”だろうが、あの貼り付けられた死体は違う。
傷に無駄があり過ぎる。木への貼り付け方だって、左右不対象でしかも、見せ方もいまいちだ。
(どっかの頭のオカシイ野郎の突発的犯行? まあ、どうでもいいけど)
男はポケットからカメラを取り出し、少年達の骸をファインダーに収めていく。磔刑された死体には見向きもしなかった。
(いいねいいね。素敵だ。最高だ。芸術品だ。同類の者として、嬉しいよ)
最後の死体を写真に収めた男の顔には、満面の笑顔が貼り付いていた。
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