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足の向かうまま、ふらりふらりと歩いているとその頭の上に大きな手が乗せられた。俺のものよりも大きくて、固くて、骨ばった手だ。
今俺と連れだって歩いている人は一人しかいないので、振り向かずともそれが誰の物かなんてわかる。いや、そうじゃなかったとしても、俺がこの人の温もりを間違える事なんてないのではないだろうか。
「旦那」
ちろりと斜め後ろのその人を見上げると、マフラーに埋もれて目から上しか見えなかった。
「あんま先々歩くんじゃねぇよ。寒くて体動かねーっての」
マフラーに覆われたくぐもった声が返ってくる。
へいへい、と適当に答えたが頬が弛みそうになって慌てて、しかしなるべく自然に背を向けた。
彼は俺の歩調など気にとめていないと思っていた。二人で出掛けるとなっても、いつもお互い好きなように歩いていたし俺も旦那も人に合わせて歩くようなタイプではない。
きっと普段ならあんな台詞、ムッとくるだけだろう。しかしそれを旦那に言われると、どうしてこうも嬉しいのだろうか。ぼんやりと暖かくなる心中を少し持て余しながら、軽くなった足どりを抑えて旦那の隣で一歩一歩足を踏みしめた。
「今日まだ暖かい方ですぜ。どんだけ引き込もってんですか」
「うっせーな。大人は色々やることがあるんだよ」
「年寄りの間違いじゃなくて?」
適当な軽口を叩き合いながらゆっくり歩き続ける。外気は確かに冷たいけれど心地よい。
「あー花見してぇな、花見」
「真冬に何言ってんでィ。春はまだまだ先ですぜ」
「わーってるよ。でも雪の中に佇む桜ってのもいいんじゃねぇの」
空を見上げて話す旦那の顔は相変わらず半分隠れたままで、しかしどことなくきらきらとしている気がする。
「狂い咲きでもしてない限り無理ですけどね」
「ロマンがねぇな〜」
「現実主義者なんで」
はは、と軽く笑ったあと、まあ、と言って旦那の目がこちらを向いた。
「春になったら花見しようぜ。沖田くんは団子担当な」
イタズラっぽいその笑みも、そして言外に春にも隣に居るのを許された事も、俺の心をどうしようもなく弾ませていく。
「結局花より団子ですかィ」
「それは否定しない」
そうしてまた二人で笑って。
俺達の後ろの雪道には、仲良く並んだ二人分の足跡が残っていた。









となり









2012.3.4


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