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死ネタ





嗅ぎ慣れた臭い。見慣れた色。俺の手を染める、血。
しかしどう頑張っても俺はその事実を受け入れられなかった。
だって、だって、腕の中には確かな温もりが在る。
「だ、んな…」
呼べば彼は苦しそうに微笑んだ。

「沖田、くん…。俺ァ、もう、駄目みたいだ」
無意識に首を左右に振る。目に涙が溜まってきているのが分かる。でも、零しちゃ駄目だ。
零してしまえば、否定できなくなるじゃないか、受け入れているみたいじゃないか、目の前の光景を。旦那がたった今言った事を。
そんな俺を見て、旦那は困ったように微笑む。

「旦那、」
「お前は、生きろよ。俺の、後なんて、追うなよ。
追ってきても、待って、やらないから。」
嗚呼、駄目だ。そんな事言わないでくだせェ。
抑えきれなくなってしまった、溢れ出る涙を。
それは俺の頬を伝って零れ落ち、旦那の胸を濡らす。
「参った、な、湿っぽい、のは、苦手、なんだ。なぁ、泣かないで、くれよ、おきた、くん」
言葉を紡ぐのも辛いらしく、途切れ途切れに言う。
ゴシゴシと袖で涙を拭うが、その傍から又溢れて来るもんだからどうしようもない。

旦那の唇に、自分の物を重ねる。触れるだけのキス。
触れた柔らかい唇からは息が漏れていたし、暖かかった。いつもと何も変わらないじゃないか。
…でも、もう終わりなんだ。これで最後。
最後まで旦那を困らせてどうするんだ。そう、最後ぐらい笑って見送ってやらなきゃ。

「旦那、愛してまさァ。」
上手く笑えているだろうか。涙で濡れてぐしゃぐしゃになった顔は、きっと酷く不細工だろう。
でも、これが今俺が出来る精一杯の笑顔だ。
「俺も、あいし、てるよ、おき、た、く…ん…」
掠れた声で、微笑みながら言う旦那。今まで見た中で一番優しい笑顔だ。
だらりと重い旦那の上体を引き寄せ、なるべく優しく抱き締める。
体に力が入らないらしく、俺の肩に顎を乗せて体重を預けている。
「ありがとう、しあわせだった」

耳元で囁かれた言葉。それと同時に微かに聞こえていた旦那の呼吸する音が消えた。

崩れかかった体を抱きとめて、そっと目を閉じる。瞼の裏には、旦那と過ごした日々の映像が浮かんでは消える。
そういえばあの人は、俺と居る時はよく笑ってたな。俺も、あの人と居る時はよく笑ってた。
そうか、俺達はしあわせ、だったんだ。
「ありがとう、俺もしあわせでした」

俺に愛を教えてくれた人、しあわせをくれた人、どうか、どうか、安らかに。









伝えきれない感謝を













2009.3.15



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