俺は貴方が何処か俺の知らない所へ、ふと消えてしまうのではないかといつも、いつも。隣に居て話して笑って時間を共有している時でさえ、心の奥底では不安で不安で仕方ない。
貴方は掴み処がなくて、どこか俺と似ているのに俺には到底見えないような大きな世界を見ている。その視線の先に何があるのか、俺には見えない。
俺はまだまだガキで、甘っちょろくてそのくせ背伸びして、でもきっと貴方には全て見透かされているのだろう。貴方は俺よりずっと色んな事を知っているから。
今でもまだ、解らない。何故貴方が俺を選んでくれたのか。
余裕の無さを必死に隠しているのに、貴方の前ではそんなメッキは全て剥がれ落ちてしまう。それでも貴方は、そんな俺の隣で微笑ってくれる。
いつの間にこんなに依存していたのだろう。俺にはもう、貴方のいない世界なんて考えられない。
でも貴方は、何にも依存していないように見える。貴方を縛れる物なんて、何も無いのではないか。
貴方は全てを掬い上げるのに、手元には何も残さない。手の平から零れる水達は、此処に居たいと叫んでいるのに。
救われた者は貴方に依存してしまうのに、貴方は誰にも救いを求めないのだ。手を差し延べる事さえさせてくれない。
真の辛さは誰にも見せず、辛さを抱えている事すら悟らせてくれない。
だから、不安になるんだ。
貴方がいつか、内に抱えた辛さに耐え切れなくなった時、貴方は全てを無かった事にしてふらりと姿を消してしまうのではないかと。
直前まで普段通り締まりなく笑って、そして引き止める間もなく去るのだろう。
その瞬間が、まさに今なんじゃないかと。そして俺は不安に駆られる。
「旦那ァ」
「んー?」
思わず貴方の手を掴んでいた。気温が低いせいか、その手は冷え切っていた。
俺の手に、貴方の冷たさが伝染するばかりで、貴方の手はちっとも温かくならない。
貴方はこんな些細な事でも、依存してはくれないのか。俺ばかりが貴方に依存してゆく。
ぎゅうっと貴方の手を握りしめると、優しく握り返してくれた。
「沖田くん、俺は何処にも行かねぇよ。なんだかんだ言っても、沖田くんの隣が一番落ち着くからなァ」
ああきっと、俺の葛藤も貴方にはお見通しなんだろう。たった一言だけれど、それは俺が一番欲しかった物。
重く心の奥に蔓延っていた不安な気持ちが、その一言でどれだけ救われただろう。柄にもなく、泣きそうになった。
そして俺はまた、貴方に依存してゆくのだ。
もう抜け出す事なんて出来ない。
貴方なしじゃ生きられない
2010.6.8
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