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「じゃあ、また明日」
「ああ」
夕日に照らされる君を見て、いつも苦しくなる。明日、なんて言わずこのまま引き止めてしまいたい。
『今日は一緒にいてくれないか?』
そう言ったら、優しい彼はきっと一緒にいてくれるだろう。
でもそんな事、口に出せるはずがなかった。

俺と杉村はいくら仲が良いと言っても、所詮友達。困ったように、呆れたように笑いながら彼は馬鹿ばっかりやってる俺や、ノブや、三村や、豊達を見守ってくれていた。
杉村の大きな手に頭を撫でられると、嬉しくて安心して苦しくて辛くて泣きそうになる。気付けば彼の事が好きになっていた。
和美さんを好きになった時よりずっとずっと苦しくて、何度こんな想い捨ててしまいたいと思った事だろう。
しかし捨てたいと思っても消えてくれる事はない。俺は必死に杉村の友人を演じた。
顔を合わせれば挨拶を交わして、くだらない話をして。俺はそんな立ち位置に縋っていたのだ。前にも後にも動けなくて苦しくて仕方ないのに、そんな位置に固執していた。嗚呼、なんて見苦しいんだろう。

「七原?どうしたんだ?」
「え?」
別れの挨拶をしたのに、彼はまだそこに佇んでいた。じっと俺を見つめる真っ黒な瞳に、俺の思考は一瞬停止した。
「何かあったのか?」
表情にはあまり出ていないものの、俺を心配してくれているのがわかる。そんなに顔に出ていたのかなと焦る一方で、気にかけてもらえて嬉しいという気持ちがじんわり滲み出て、慌てて蓋をした。
「何もないけど?」
ぎこちなくそう返すと、杉村は納得してはいない様子だったが、小さくそうか、とだけ言ってそれ以上は言及しないでくれた。
そんな小さな気遣いにいちいちときめく自分に心の中で悪態をついて、じゃあと軽く手を振り杉村に背を向けた。

俺は気付かないフリをしていただけかもしれない。踵を返す瞬間、彼の瞳は切なく揺れていた。
その意味を知るのが怖かった。想いを言葉にするのが怖かった。拒絶されるのが怖かった。友達という立場を失うのが怖かった。

「七原!」
足音が近付いて来て、俺が反応する前に気付けば俺は杉村の腕の中にいた。
「すぎ、むら…?」
「七原、俺はお前が好きだ。すき、なんだ」
息を飲みながらも、心の底からは驚いていない自分がいた。やっぱりどこかでは気付いていたんだ、確かめるのが怖かっただけ。
俺は臆病なんだ。
杉村が好きだと言ってくれたのに、まだ言葉にするのが怖い。何とかこじ開けた唇は、微かに奮えている。
「おれも、」
喉がカラカラになって、やっと絞り出した声は掠れて言葉としてはあまりに不格好だった。
駄目だ、こんなんじゃ駄目だ。
うっすら汗ばんだ手を杉村の背中に回し、カッターシャツをぎゅっと掴んだ。
「おれも、杉村が好き」
頼りない声ごと、杉村は俺をさらに強く抱きしめた。


臆病な俺にさようなら。
君が好き、だから俺、頑張るよ。











逃げるのはもうやめだ














2010.5.23


あきゅろす。
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