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吐き出した息が白くなって空に溶け込んでいく。冷気を吸い込んだせいで、鼻の奥がつんと痛くなった。
風祭は手に息を吹き掛け、手先の冷たさを紛らわせようとするが、勿論それしきの事でどうにか出来るような寒さではない。
彼の指先は真っ赤になっており、触らずとも冷え切っているのが分かる。
「カザ、」
「はい?――わっ」
シゲに呼ばれ、振り返ったと同時に缶ジュースが孤を描いて飛んできた。危うくそれを手の中に収めると、じんわり熱が伝わってきた。

「カイロ替わりや。優しい優しいシゲさんの奢りやで」
投げて寄越したのと同じ缶ジュースのプルタブを押し開けながら、茶目っ気をたっぷり含ませて笑う。風祭もへらりと相好を崩し、礼を言って缶ジュースを両手で包み込んだ。
かじかんだ手にじんじんと熱が伝わって、ホッと息をつく。シゲに倣って缶を開け一口飲むと、温かい液体が喉を通って行くのを感じた。

「あ、」
静かに響いた声を辿ってシゲを見れば、彼は空を見上げていた。どうしたのかなど聞かなくとも、風祭の瞳にも降りゆく白い結晶が見えた。
「雪ですね」
シゲは視線を空に留めたまま頷いた。
幾分か暖まった手を空に向けると、手の上に舞い降りた雪が体温で溶け、あっという間に色をなくしていく。液体になったそれは、手の平の淵から伝い落ちていった。
「カザ」
「何ですか?」

「走ろっか」
脈絡のない言葉を紡ぎ出し、シゲはニッと笑った。風祭がキョトンとしている間に、シゲは走る構えを取った。
「よーいドン!」
「え、わ、待って下さい!」
お構いなしに走り出すシゲの背中を、慌てて追いかけた。

二人の声は何時しか笑い声に変わり、降り続ける雪が淡く彼等の背中を照らした。










走れ風の子








第5期拍手御礼文
2009.12.19〜2010.5.15


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