[携帯モード] [URL送信]
 




何処かで僕の名を呼ぶ、優しい声がする。その声を辿るようにぼんやり目を開けると、はっきりしない視界の中にオレンジ色が飛び込んできた。
「アレン、おはよう」
「…ら、び?…おはようございます」
まだ回転しきっていない頭で、声の主がラビだという事を漸く認識した。
カーテンの隙間から漏れる光が朝の訪れを告げている。のっそりベッドから起き上がると、ラビがくしゃりと僕の頭を撫でた。

起き上がったはいいものの、何故彼が此処、僕の自室にいるのか把握出来なくてぼうっと彼を見つめていると、唐突にくいっと顎を持ち上げられ、唇に柔らかい感触が落ちてきた。それは一瞬の事だった。
反射的に閉じた目をゆっくり開くと、至近距離でラビと目が合った。彼は僕に向かってニコリ、綺麗な笑みを浮かべた。
その笑みを見つめながら、2、3回瞬きを繰り返す。ああ、漸く思考が追い付いてきた。
「…朝っぱらから何やってるんですか」
頭は回り出したけれど、寝起き一番に喚いたりする気も起きず、低いテンションのまま口を開く。するとラビは、笑みを崩さぬまましれっとおはようのキスさ、なんて言って寄越した。

「大胆、どうやって部屋に入ったんですか…。鍵、掛かってたでしょう?」
「そりゃあもう、愛の力さ!」
…コムイさんに頼んで、鍵を頑丈なのに付け替えてもらおう。
ガッツポーズをするラビに、軽い頭痛を覚えた。ラビの調子に合わせるのも面倒で、そうですか、と返しながら絵に描いたような営業スマイルを浮かべた。

「…で、何か用ですか?」
(おそらくだが)ピッキングまでして侵入したのだから、何か用事があったのだろう。ラビはコクリと頷いた。
「これ、アレンに」
すっと差し出されたのは、一輪の薔薇の花。ずっと後ろ手に何か隠しているなとは思っていたけれど、これは予想外だった。反応に困ってラビの瞳を覗くと、彼は先程とは打って変わって真剣な目つきで再び開口した。
普段と違うラビの表情に、心臓がドキンと音を立てる。

「アレン、愛してる」
心音が一層煩くなった。
そしてふと思い出した。そうだ、そういえば今日はバレンタインデーだ。
面と向かってそんな事を言われるのはやはり照れ臭くって、一瞬彼の瞳から視線を外した。ドキドキと煩い心臓が少し落ち着くのを待って、赤い薔薇を受け取った。
心が、じんわり温かくなるような感覚がした。
そしてゆっくり顔を上げ、ラビの瞳に視線を戻す。今度は営業スマイルなんかじゃない、心からの笑みが溢れ出た。

「ありがとう。僕も、愛してます」










情熱を君に捧ぐ













2010.2.14



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!