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アレンは、自室に向かうべく長い廊下を歩いていた。彼の腕には、一つの白い箱が抱えられている。
箱の中身はショートケーキ1ホール。任務で赴いた街で見つけた、とびきり美味しいケーキ屋の物だ。そこのケーキがすっかり気に入ってしまった彼は、任務完了後に自腹を切ってこのケーキを購入したのだ。
箱を抱える彼の表情は真剣そのもの。彼の意識はそのケーキだけに集中されていた。

そんな時だった。視界の隅に赤が見えたかと思うと、後ろからの衝撃。
「アレンー!」
ラビに抱きつかれていた。
アレンの首に腕を回し、へらへらと笑って顔を覗き込んでくるラビ。しかし、アレンはそちらに一切視線を向けない。
「ラビ、ケーキが崩れたらどうするんですか!」
そう、彼は何よりもケーキを心配していた。今の衝撃でもしもの事があったら、と。
ケーキ?アレンの腕の中の箱を見てなるほど、納得する。それでこの子はあんなに真剣な顔をしていたのか。
「…で?何か用ですか?僕今物凄く忙しいんで後にして下さいよ。」
やはり視線を向けずに言う。ケーキを抱えて忙しいとはよく言ったものだ。しかし事実彼にとっては重大事項なのだ。
つれないさぁ、言いながらラビは腕に回していた腕を肩に回し隣を歩きだす。

「ああそれとラビ、ひっつかないで下さいうざい。」
表情を一切変えずに言うアレン。普段のにこやかな彼は何処へやら、とにかくケーキの安全第一なのだ。他の事なんて構っていられないらしい。
「ア、アレン、酷いさ…」
ショックを受けながらも肩に回した腕を離そうとはしない。

「チッ」
背後から舌打ちが聞こえた。それは明らかにこちらに向けて発せられた物だ。その人物に大体予想はついたが、ラビは顔を振り向かせて確認した。
「おー、ユウじゃん」
彼の名を呼べば、眉間に寄っていた皺が一層深くなった。
「俺のファーストネームを口にするんじゃねぇ。あと、てめぇら廊下の真ん中で鬱陶しいんだよ、邪魔だ」
怒りを露わにして言う神田にラビはしたり顔で笑みを作った。
「何?ユウ、嫉妬?」
「叩き切るぞバカ兎」
売り文句に買い文句。間髪入れずに怒声が返って来た。しかも神田の手は、しっかり彼の愛刀六幻に掛かっている。
しかしそれに言葉を返したのは身構えたラビではなく、彼に肩を抱かれたアレンだった。
「神田、今抜刀したら今後一切口利きませんからね。」
さらりと真顔で言ってのけたアレンに、今にも踏み出しそうだった足を思わず止める。
普段憎まれ口ばかり叩いて顔を合わせるたび喧嘩をしていたものの、意中の相手にそんな事を言われては流石の彼も手も足も出ない。
ラビは思わずにやりと笑った。しかしそんなラビに神田がキレる前に、ラビの想い人でもある彼が口を開いた。
「ラビもですよ。さっさと離して下さい。」
無感情に言い放たれ返す言葉もなくアレンの肩を解放した。
呆けている二人を尻目に、アレンは箱を抱え直し自室に向かってさっさと歩き出す。
後に残された二人は、唯その後ろ姿を見送る事しか出来なかった。










振り向いて!













2009.3.11



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