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此処も昔に比べて随分平和になった。日夜刀を振るっていたあの頃から考えると、信じられないほどに。
しかし平穏な日常は時として退屈に感じてしまう。俺は結構波瀾万丈な人生を歩んでいる方だと思うし、めんどくさい事件に巻き込まれる事も他人より確実に多い。
それでもやはり、一週間もダラけていると退屈さを感じてくるというもの。別に戦乱を望んでいるわけではない。
ただ少し、非日常的な事が起こらないかと期待してしまうのだ。そう例えば、ひったくり犯に遭遇するとか、UFOを目撃するとか、…指名手配犯に誘拐される、とか?


「銀時、茶が入ったぞ」
「…ん、サンキュ」
コトリと、俺の前に湯呑みと大福が置かれた。俺は迷う事なく大福を手に取ると、口の中に放り込んだ。
向かいに座ったヅラの長い指が、再び湯呑みを持ち上げ口に持って行く。それをぼんやりと視界に入れながら、大福を咀嚼し飲み込んだ。

指名手配犯というなら、確かにコイツもそうだ。誘拐、ではないけれど。しかし室内には俺とコイツの二人きり。こう言えば中々アブノーマルな状況じゃないだろうか。俺が退屈しのぎに望んだ状況となんら変わりはない。
だがそれは、俺達の関係を勘定に入れなければ、の話だ。
なんてったって俺達は十年来の付き合いで、その上所謂恋人同士である。そりゃあ、今更緊迫した状況になんてなるわけもない。

「どうしたんだ?」
無意識に溜息をついていたらしく、ヅラが首を傾げた。
「んー…、お前にさらわれてもなあ…」
「は?」
「いや、まあ、最悪お前でもいいけど…」
ヅラはますます首を捻る。そんなヅラを余所に、俺は二つ目の大福に手をかけた。
コイツは俺好みの味の菓子を見つけてくるのが、やけに上手い。ヅラが俺の為に用意した菓子で、ハズレだと思ったのは一つもないくらいだ。勿論、この大福も絶品だ。

「なんだ、さらってほしいのか?」
ずずっと茶を飲む俺に、ヅラが顔を寄せる。近い。
っていうか何笑ってんだ、何で嬉しそうなんだ。
「違ぇーよ」
「そうかそうか」
コイツ本当人の話聞かねぇよな。
ヅラの顔面を掴んで、ぐぐぐと押し返した。

「お前が望むなら、何処へなりとも拐ってやるぞ」
そういう事じゃねーんだよ。
…いや、でもそれも良いかもしれない。ヅラにさらわれて、誰も俺達の事を知らない地へ行ってみるのも。
「――じゃあ、宇宙の果てまでさらって行って」
顔面を掴んでいた手を離して差し出すと、ふっと笑ってヅラがその手をとった。
「お安い御用だ」
当初の望みとは少し違ってしまったけれど、まあいいか。最高の暇潰しだ。












手を引いて、何処までも

















2010.1.24


あきゅろす。
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