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豪華に飾り付けられた部屋に、天井届かんばかりにそびえるクリスマスツリー。
12月25日、クリスマス。食堂にこれでもかと溢れんばかりに集まった人々は皆一様に顔を綻ばせ、聖夜の浮かれたムードを満喫していた。
僕も例外ではない。勿論何よりの楽しみは、先程から鼻孔を擽る臭いの発生源達だ。食欲をそそるその臭いを思い切り吸い込むと、それは空っぽの胃袋に染み渡り空腹を倍増させる。先刻から腹の虫が鳴りっぱなしだ。

「アレン」
「あ、ラビ」
こちらに向けられる翠の瞳に視線を合わせる。いつもなら目立つオレンジの髪も、今日ばかりは赤い帽子を被った人々の中に埋もれてしまっている。
「アレン、厨房見てる時ハンターみたいな目してたさ」
「まあ、否定はしません」
食事は戦いですからね。真顔で言うと、ラビは程々にな、とどこか遠い目をしながら僕の頭を軽く撫でた。

「あ、それよりアレン!お願いがあるんさ!」
「嫌です」
「速っ!」
パッとラビの瞳が輝いた瞬間に、食い下がる隙もない程バッサリと切り捨てた。
ラビが後ろ手に隠し持っているサンタ服(ミニスカ)に、僕が気付いていないとでも思っているのだろうか。こちらに向かって来る時から見え隠れしていたというのに。
そんな物僕に着せて何が楽しいのか全く理解出来ない。とりあえず無言かつ無表情でゴミ袋に詰め込んでおいた。勿論ラビが引き止める声は完全無視だ。
「あああ…せっかくミニスカサンタのアレンといちゃいちゃしようと思ったのに…」
「そんな計画、成功するわけないでしょう」
ラビは不満そうに見てくるが跳ね退けた。するとラビはこちらに向き直った。…ああ、何だか展開が読めた気がする。

「いいさ!いちゃいちゃだけでも実行します!」
気付いた時には、予想通りラビの腕の中にいた。
人目も憚らず抱き着いてくるのはいつもの事なので、もう諦めた。周囲も慣れていしまい、誰もさして気にとめる事はしない。
だからラビはこれだけではいちゃいちゃしたと、満足するとは思えない。
現に背中に回された腕の力がいつもより強くなり、密着度が増してきた。肩に顎が乗せられ、ラビの吐く息が耳にかかって擽ったい。
「ラビ…、苦しいです」
しかしラビはお構いなく、今度は僕の首元に顔を埋めた。しかしそれはつかの間で、彼は僕をしっかり抱きしめたまま天を仰いだ。

「アレンー!誕生日おめでとうー!」
半ば叫ぶような声のボリュームに少しびっくりしたけれど、それでも頬が緩んだ。
「ありがとう」
背中にあった右手が僕の頭を抱え込み、ラビの肩に押さえ付けられた。彼もまた、僕の肩に顔を埋めた。
「アレンー」
「はい」
「アレン」
「…はい」
「アレン…」
「…」

「愛してる」
耳に寄せられたくちびる。囁かれた心地良い調べに身を委ねた。










聖夜を愛で満たそう













2009.12.25



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