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放課後。二人きりの教室。
笑うキミ。


取り留めのない、くだらない会話を交わしていた。外に目をやれば、いつの間にやら太陽は地平線へと落ちかけている。
会話の途中、カザが笑う。その頬にふっと朱が差した。
窓から注いだ夕日が染めたんやろう。カザの笑顔がいつもより輝いて、しかしはかなく見えた。

(きれい、)
吸い寄せられるように、静かに距離を詰める。眼前に迫った俺に驚くカザの顔は目に入ったが、それは俺の思考を呼び戻すには至らんかった。
左手はポケットに突っ込んだまま右手でカザの頬に手を添えて、ゆっくり唇を重ねた。柔らかい感触に、そっと目を閉じる。

しかしそれはそう長くは続かなかった。カザにカッターシャツを引っ張られてはっとした。
慌てて身を離すと、頬を真っ赤に染めて戸惑った表情を浮かべたカザと目があった。
やっば今俺何した?キス?告ってもないのに?ていうかカザ、その表情可愛すぎるやろ。…って違う違う。カザの唇柔らかかったな…ってだから、ちゃうって!
俺が心の中で一人漫才を繰り広げている間も、カザは俺から目を逸らさんかった。あー…、何て言えばいいんやろ…。

「し、げさん」
漸く搾り出した、というような声でカザが俺を呼んだ。その後も何か言葉を続けようとしてたけどそれは音にはならず、空を切るように口を小さくぱくぱくしただけに終わった。
「ごめん、」
俺も漸く言葉を搾り出した。
何謝ってんねん、俺。ちゃうやろ、説明せな。
ありのままを説明するなら、『カザの事が前から好きで、思わずキスしちゃいました。』やけど、そんな事言える筈もない。結局謝っただけで、言葉に詰まってしまった。

「びっくりしました」
そらそうや。友達、しかも男にいきなりキスされて驚かん方がおかしい。
「僕も、…キスしたいって思ったから」
驚くのは俺の番やった。
カザは俯いてもうたけど、髪の間から覗く耳が夕日のせいに仕切れん程真っ赤に染まっとった。それは、今の嘘言葉はじゃないって示すには十分やった。
「え…っと…、抱きしめてもいい?」
よく目を凝らさなければわからない程小さく、カザの頭が縦に揺れた。そっと手を伸ばすと一瞬ビクリと揺れたけど、小さな体は俺に寄り添うように腕の中にすっぽり収まった。
「カザ、…好きや」
耳元で囁くように言うと、カザの手がおずおずと背中に回された。
「僕も、好きです」
緩く鼓膜を擽った音は、俺の心を暖かくして行った。


放課後。二人きりの教室。
笑うキミ。










夕日が照らした想いたち













2009.11.24



あきゅろす。
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