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(トレ選辺り)



「カザ?」
「あ、シゲさん」
声をかけられ振り返ると、そこには予想した通りの人がいた。シゲさんは風に金の髪を揺らしながら、こちらに近付いて来た。
「また自主練?」
「はい」
「…程々にしときや。体壊したら元も子もないからな」
「…はい」
苦笑い気味に答える。確かにその通りなのだが、周りにこんなに凄い人達が沢山いて触発されないわけがない。シゲさんにはそれも分かっているようで、それ以上言及される事はなかった。

「!わ、わわ、」
突然、シゲさんに頭をわしゃわしゃと撫でられた。いや、掻き交ぜるという表現の方が適切かもしれない。元々整えてなどいなかったのだけれど、髪もボサボサだ。
漸く手を離され、髪を整えながらシゲさんを見上げると彼はにやっと悪戯っ子のように無邪気に笑った。
「また明日」
「は、い。おやすみなさい」
手を振りながら去る彼の笑顔は、今までのそれよりずっと綺麗だった。

僕はシゲさんがサッカーをやめてしまうのではないかと懸念していた。確かに彼は試合中は一生懸命に楽しそうにプレーしているように見えたのだけれど、でも彼はどこか一線置いていた。
まるで、夢中になる事を避けるように。熱くなる自分を否定するように。
それは、いつでもサッカーをやめられるようにする為の一線にも見えた。
彼がサッカーをやめてしまうかもしれない、と思い至った時、どうしようもなく寂しい気持ちになった。
シゲさんは愛しい人であると同時に僕の憧れで。まだまだ敵わないけれど、いつかは追い越したい目標で。何より、僕とシゲさんを繋ぐ一番大きな物はやっぱりサッカーで。
だから、言いようのない喪失感に襲われた。

でもそれは僕の思い過ごしだったようだ。というより、何かが吹っ切れたのか。
何がきっかけだったのかは知らないけど、サッカーをしている時の顔つきが全く変わった。なんて言うか、今シゲさんはキラキラしている。きっと、サッカーに真剣に打ち込むようになったからだ。その瞳は今までになく輝いていて、真っ直ぐで澄んでいて、だからさっきの彼の笑顔を、これ以上なく綺麗だと思ったんだ。

それに、好きな人が自分と同じ物を好きって、とっても嬉しい。好きっていう気持ちを好きな人と共有できるんだもの、それはすごく幸せ。

先刻シゲさんに掻き乱された頭に手をやった。手櫛で整えたので、髪はすっかり元通りになっている筈だ。
髪に触れると、まだシゲさんの温もりが残っている気がして、こっそり笑みを漏らした。










貴方は僕の憧れです













2009.11.1



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