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自分の中に、こんなにドロドロした感情が在ったなんて。


「馬鹿だなー、将は」
「翼さん〜…」
盛大にすっ転んだ将を見下ろしながら笑う。鼻ぶつけたんじゃないか、これ。情けない声を出しながら、将は俺を見上げた。
可愛いという言葉が口をつきそうになるが、寸前で飲み込んだ。にやけそうになる頬も、無理矢理引き締めた。
「風祭、大丈夫かー?」
「うん、ありがとう若菜くん」

ああ、まただ。

近くにいた若菜が差し出し将を引っ張って起こした。お礼を言いながら将は若菜に笑いかけた。
何も不自然な事はない。自然な流れだ。
なのに、将が他人に笑いかけたというだけで、どろり、汚い感情が溢れる出す。
ゆらゆらと立ち込める歯痒さ、苛立ち。これは一体何に対する苛立ちだろうか。若菜に笑いかけた将へか、笑いかけられた若菜へか、それとも、何も出来ない自分自信へか。

俺は嫉妬、しているのだろうか。それにしても笑いかけたというだけで嫉妬って、どれだけ独占欲強いんだ俺は。
思わず自嘲気味な笑いが洩れる。

「翼さん?」
「…何でもない。それより、次はこけるなよ。FWにあんな所でこけられちゃあ、俺達がいくら守っても勝てないだろーが」
「が、がんばります…!」
拳をぐっと握りしめる将を見て、緩く笑う。
どうにかごまかせたかな。駄目だ、油断するとすぐに表に出てしまいそうになる。

俺はこんなにドロドロした俺を、将に見付けられるのが怖いんだ。将を独占したい、という俺の中に渦巻く汚い感情を見られたら、将に嫌われてしまいそうな気がするんだ。
どうにかならないだろうか。慣れないこの感情を、ずっと持て余している。
だって将に出会うまで、自分の中にこんなにドロドロしたモノがあるなんて思いもしなかったんだ。
外にも吐き出せず、かと言って内に溜め込んでおくのはそろそろ限界だ。

「将、」
他の所ではどうだか知らないが、この選抜では『将』と呼ぶのは俺だけだ。さん付けとはいえ、名前で呼ばれているのも俺くらいじゃないだろうか。尤もそれは俺が強要したに近いけれど。
くだらない事かもしれないが、それが随分俺の心を軽くしている。精神安定剤みたいな物かもしれない。だからちょっとした事ですぐに彼の名を呼んでしまう。
「何ですか?翼さん」
「次、決めろよ」
「…はい!」
力強く頷いた将は、きっと俺が声をかけた意図になど気付いていないだろう。
醜いのは自覚してる。でも、縋れるのはこんなちっぽけな事だけなんだ。
だから、もう暫く気付かないで。俺だけに名前を呼ばせて。










独占欲













2009.10.17



あきゅろす。
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