[携帯モード] [URL送信]
 




「あとちょっとだね」
時計の針を見つめながら、慶時が呟く。俺もそれに目をやって頷いた。
何があとちょっとって、明日になる迄の残り時間が、だ。そしてそれは、俺が一つ歳をとる迄の残り時間でもある。
「もうすぐ14歳かぁー…。なんか早いなぁ」
「今からそんな事言っててどうすんだよ」
確かに、歳とってからの方が時間の流れが速く感じるって言うもんな。でも、楽しいと時間の流れが速く感じるというのも事実。
慶時や三村、杉村、豊達と馬鹿やったり、部活でギターを掻き鳴らしたりするのはどうしようもなく楽しいのだ。

「あと10秒、9、8」
慶時がカウントダウンし始める。それにつられてか、ちょっと緊張してきた。カウントが0になって俺が一つ歳をとった瞬間に何かが変わる、という訳でもないのに。
「3、2、1、…おめでとう!」
「ありがとう」
ホッと、緊張が溶けて自然と笑みが浮かんだ。
同時に傍らに放り出していた携帯電話が、メールの受信を告げて震え出した。
「あ、三村からだ。…うげ、」
慣れた手つきでメールを開き、そこに表示された文字を見て思わず声が洩れた。
「何なに?」
「『誕生日おめでとう。14になっても愛してるぜ、ベイビー』だって…!ジョークでも日付変更と同時にこれはキモいって!」
笑いながら画面を慶時に見せる。慶時もうわー、と言う声を漏らした。
勿論、本気で嫌な訳ではない。三村お得意のジョークなのだから。うわーなんて言いつつ、二人とも顔は笑っている。

「あ、」
手にしていた携帯が、また震えた。画面を開いたままだったので、そのまま届いたメールを見る。
「杉村だ。うわー、シンプル!」
横から慶時が覗き込むその画面に表示されたのは、『誕生日おめでとう』の一文だけ。まあ、杉村らしいっちゃらしいけど。
「でも、杉村って普段こんな時間まで起きてなさそう」
「確かに…」
もしかして生活リズムを乱して眠い目を擦りながら、このメールを送るためにわざわざ睡眠時間を削ってくれたのかな。そう思うと、たった一文でも凄く嬉しい。

「おっ、今度は豊!…って、長っ!」
「本当だ…。しかも杉村のあとだから、余計長く感じる…」
画面にびっしり表示された文字。でも読んでいる最中は笑いっぱなしで、この量でも少しも苦にならないや。いや、まあ笑い過ぎで腹は痛くなったが。流石豊だな。


もうメールも来ないだろうと、携帯をぱたりと閉じる。誕生日を迎えた瞬間に祝って貰えるって、とても幸せだ。
明日…いや、もう今日か。勿論ありがとうというメールは返したけれど、学校で会ったら皆に直接お礼を言おう。この嬉しい気持ちが少しでも伝わればいい。










Thanks!














2009.10.13


あきゅろす。
無料HPエムペ!