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「…アレン?」
窓際で一人佇むアレンを見付けた。じっと何かを見ているようなのだが、アレンの背中越しに覗いてみても、何も変わった物は見当たらない。
「何見てるんさ?」
アレンはちらりと視線をこちらに向けて、また直ぐに窓の外に戻した。心なしか、瞳が輝いているような気がする。

「空」
「空?」
首を傾げながら空を見上げるが、アレンの言わんとする意味はよく分からなかった。
「ほら、あの雲」
アレンが指差す雲に目をやる。あれが何だと言うのだろう。特に変わった様子も見られない。
「空との境界がすごく曖昧で、ちょっとすれば溶けてしまいそうじゃないですか?」

そうかなあ。そう言われてみればそうかもなあ。
「あ。ほら、もうあっちの空は赤くなってる」
アレンの視線を追うと、確かに赤く染まる空が見えた。
「…綺麗」
うっとりとため息をつくように、しかし瞳はキラキラと輝かせたまま。この子はこんな風に、ずっと空を眺めていたのだろうか。刻々と移り変わる、酷く不安定なその一瞬一瞬の風景を瞳に焼き付けるように。
俺なんて、今アレンに言われなければ、こんなに身近にある景色に一生気付く事はなかっただろう。こうしてじっくり空を眺める事なんてなかっただろう。
俺にとって、空は空で。それ以上でも以下でもない。ただ当たり前のようにそこに存在するだけで、たまには見上げる事もあるだろうがつまりは知覚の外なのだ。

「…うん、綺麗さ」
思わず呟いていた。かけらの嘘もない言葉。
こんな感覚、初めてだ。一気に世界が開けた気がする。
知識としては、この世界の事を沢山知っている。勿論、アレン以上に。でも、この世界の本質に関しては、アレンの方が博識だった。
俺は本当は何も解っちゃいなかったのだ。上辺だけで、何でも知っている気になっていた。

アレンは目を細めて破顔しながら、満足気に頷いた。
その間にも、空はどんどん茜色に染まっていく。先程アレンが『溶けそう』と形容した雲も、すっかり赤に染まっている。
何だろう、胸が弾んでいるのにすごく穏やかな気持ちだ。
アレンがこてんと俺に体重を預けて来た。俺は黙ってそれを受け止める。
二人でいるのにこんなに会話が少ないのなんて、初めてかもしれない。それでも全く気まずいだとか、居心地が悪いだとかは感じない。むしろ、沈黙が心地良い。

ゆっくり夜に変わり行く空を見つめながら、時間を忘れて何時までもそうしていた。










君が生きる世界に恋をした













2009.9.22



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