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「こんにちはー」
玄関扉越しにこちらに呼び掛ける声がした。続いて、間を置かずにがらりと扉を開く音。そして、声の主がこちらに近付く足音。
「何勝手に入って来てんの、沖田君」
浮かしかけていた腰を下ろしながら、後ろに立つ沖田君に言う。
「ちゃんと声かけたじゃねぇですか」
「いやいやいや、確かに声かけてたけど!問題はそこじゃないからね!銀さんまだ返事してなかったからね!」
「旦那が返事するのが遅いんでさァ」
「え、俺のせい?何処に返事する間があったの?」
そう言っても、沖田君は我関せずとでもいうような表情だ。何を言ってもどこ吹く風な沖田君に、これ以上言及する事を諦める。
しかし沖田君は依然として俺の背後に突っ立ったままだ。

「沖田君?座れば?」
沖田君に背後に立たれると何だか怖いし。と続ける所だったが、それは無理矢理飲み込んだ。
「…ああ、そうですねィ」
返って来た返事に違和感を覚える。心此処にあらず、といった感じだ。酷く緩慢な動きで沖田君は俺の隣に腰を下ろした。
沖田君?覗き込もうとした視線の先からふっと沖田君が消えた。かけようとした声は、音になる事はないまま。
そして、腰の辺りに巻き付く腕の感触。肩に乗せられた額の重さ。
沖田君に抱きしめられていた。

普段、沖田君はスキンシップをしてくる事は少ない。こんな風に抱きしめられる事は疎か、手を繋ぐ事だって極稀だ。
むしろ触れ合うのは唇同士の方が多い…って、そんな話は関係ないか。
ともかく、こんな事は珍しい。額を肩に乗せているお陰で沖田君の表情は読み取れない。でも何故だか、沖田君が眉を寄せて涙を堪えているような気がした。
ぽんぽんと背中を撫でてやると、腰に回された手が、縋り付くように俺の服を掴んだ。

「だ、んな…」
弱々しく俺を呼ぶ。その声は微かに震えていた。
嗚呼、この子はまだこんなにも子供だったのだ。普段飄々としていて我が道を行っていて、そんな沖田君に俺は振り回されっぱなしで気付かなかっただけ。ただ少し、甘え下手で、他人に悟らせないように強がるのが上手なだけ。
きっと、辛くても何事もなかったかのように振る舞えてしまって、弱みを見せるのが下手なのだ。今だってほら、縋り付くのに泣く事はしようとしない。唇を噛んで堪えているのだろうか。

とにかく今は、少しでもこの子が安心出来るように、ゆっくりと背中を摩ってやる。
俺が沖田君のはけ口になってやれたら、なんて、俺らしくもない考えを抱きながら。












君の涙を拭かせて

















2009.9.3


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