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任務先の宿での出来事。
それは寂れた町の外れにあり、そこに似つかわしく寂れた宿だった。扉を開けるのも建て付けが悪くなっていて力を込めなければ開かない。床は歩く度にぎしぎしと軋む。
アレンとラビは思わず顔をしかめた。しかし、他に泊まれる所もないので我慢するより仕方ない。


「うわー…」
部屋のドアをこじ開ける、ラビが素直に顔を引き攣らせて溜息混じりの声を吐き出した。アレンも中を覗いてただ苦笑いを返す。
幸いにも夕食は別の場所で済ませてあったので、あとは眠りに着くだけだ。一晩眠るだけ、そう思えば我慢出来る程度だな、そんな考えを巡らしながらアレンも自分に宛がわれた部屋のドアに手を掛ける。
「じゃあ、お休みなさい」
「おやすみぃー…」
明らかに気落ちした様子のラビに再び苦笑いを漏らして、アレンは部屋に足を踏み入れた。



「うわぁっ!!!!」
薄い壁越しに隣室から聞こえた叫び声で、アレンは目を覚ました。
突然の覚醒に意識はしっかりとついて来ていないが、反射的にベッドから飛び出していた。任務でこの地を訪れているのだから、無論AKUMAの襲撃という可能性もある尤もアレンの行動はそこまで意識が伴った物だったかは疑問だが。
ともかくアレンは、5秒と経たない内にラビの部屋の前に到達していた。
「ラビ!!」
ドアノブに手を掛けながら中に声を掛けた。…つもりだったが、その手は虚しく空を切った。というより、ドアノブを通り越してドアにぶつかった。それとほぼ同時に額にやって来た強い衝撃。
「いったぁ…!?」
「アレン!!」
アレンの呻きは、ドアに続くように飛び出して来たラビによって掻き消された。額の痛みも消え去らないまま、ラビに思い切り抱き着かれ抱きしめられた痛みが追加される。

「何なんですか、一体…」
とりあえずAKUMAの襲撃という可能性は無いらしいので、溜息混じりにラビに問う。
「あ、あいつが…!」
「あいつ?」

「ゴッキーが出たんさーッ!!」

「…はぁ?」

何事かと身構えてみれば、返って来たのは予想を裏切る答え。
一人ぎゃあぎゃあと騒ぐラビに、アレンはただ呆れた表情を返す。
「朝っぱらから、そんな事で騒いでたんですか」
「そんな事って!Gだぞ!」
「ゴキブリくらい、殺せばいいじゃないですか」
「無理無理無理無理」
淡々と言うアレンに、ラビは信じられないとでもいうように首を左右に振る。アレンは、仕方ないと溜息を一つ。
「スリッパか新聞、貸して下さい」
「…へ?」
「それでいいから早く貸して」
半ば奪い取るようにラビのスリッパを脱がすと、それを片手にアレンは颯爽と部屋に乗り込んだ。
ラビがそれを呆然と見送った数秒後、パシコーンと、乾いた小気味よい音が響いた。
「ラビ!ティッシュ持って来て」
「へ?」
呆然としていた為か、ラビの口からは間の抜けた声が漏れる。
「いいから早く!」
急かされるまま声に導かれるようにティッシュを箱ごと持って行く。こちらに背を向けるアレンの奥に見えた物は、
「アレン!?仕留めたんさ!?」
例の黒い物体の死骸。ラビはそれをなるべく目に入れないようにしながら、ティッシュの箱を手渡した。
アレンは何事もなかったように2枚抜き取ると、死骸を包み取った。
「はい、退治しましたよ」
「アレン〜!すげぇな!俺、もう一生アレンについて行くさ!!」
「…こんな事で頼られても全く嬉しくないんですけど。」
眉を寄せるアレンに対し、ラビはにこにこと笑顔を向ける。
「アレンかっこいいさ!」
要因が要因だけに素直に喜べないが、それでもラビが笑っているからまあいいか、とアレンも笑顔を返した。










助けてマイハニー!













2009.8.26



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