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見渡せばそこには、敵、敵、敵。ぐるりと俺達を取り囲む、犬、鳥、猫、虎、豹、手に手に武器を持つ様々な姿形をした天人達。
体のあちこちが痛い。少し動かしただけでズキズキと痛む。
そこに立っているのは、天人を除けばもう俺と高杉だけになっていた。地面は誰の物とも分からない血ですっかり赤く染まっている。

「おい、銀時ぃ」
背中を合わせて立つ高杉が、肩で息をしながら言う。
殺気が覆い尽くす重い空気の中、その声だけが俺の耳にはっきりと届く。
「何だぁ、高杉」
こちらも肩で息をしながら返す。声を出すのも辛い。口の中にはじわり、血の味が広がる。
「お前、まだ動けるか?」
冗談、立ってるだけでも辛いっての。
もう何もかも投げ出して倒れ込んでしまいたい。全て手放してしまえたらどれだけ楽なんだろうか。
だけど、高杉が居る手前、弱音なんて吐く訳にはいかない。そうだ、コイツはまだ立って此処に居るんだ。
「誰に向かって言ってんだ、バリバリ動けるに決まってんだろ。」
背中を向けたまま笑って言う。
「そういうお前はどうなんだよ。」
問い返せば背中から、高杉が笑った気配を感じた。
「愚問だな。テメェが動けて俺が動けないなんて事ある訳ねぇだろ」
こんな時でも口の減らねぇヤツ。指先を動かしただけで、全身に鈍い痛みが走ってる筈だ。

しかし、背中から感じる確かな温もり。まだ俺が此処に居る理由がちゃんと在る証。高杉が居る、それが俺が此処に居る理由だから。
そうだ、俺達はまだまだ生きなきゃならねぇ。俺ァ、天寿を全うして笑って死んでやる。こんな所でくたばる訳にはいかねぇんだ。
倒れていった仲間の為、そして背中を預けたコイツの為に。

「そーかよ、それなら、」
酸素を大きく吸い込み、歯を食いしばって息を止める。
刀を握る手に、地面を掴む足に、力を入れ直して前を見据える。


「「背中は預けた!」」


正反対の方向ヘ、同時に地を蹴って走り出す。
俺も高杉も、限界なんてとおに越えている。それでも俺達が闘うのは、背中に預けられた命の為。
一番護りたい人の命の為。
自分が倒れれば、相手も倒れてしまう。だから俺達は死力を尽くして刀を振るい続ける。
動かない体を無理矢理に動かして、声を枯らして、血を浴びながら、それでも引き下がらない。
ただ、前へ。


最後に此処に立つのは、俺とアイツ、それだけだ。
最後に此処で笑い合うのは、俺とアイツ、
それだけだ。













原動力はその重さ

















2009.3.5


あきゅろす。
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