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意識を闇に溶かしてからどれ程の時が経っただろうか。ふと何かの気配を感じ、意識が浮上した。
眠っている時でさえ気配に敏感なのは、過去の名残だ。神楽か定春かと思ったが、どうにも違う。
あいつらの纏う空気は、もっと柔らかい。しかし、この獣の様に荒々しくも凛とした気配を、俺は知っている。
しかし、あいつだとして、何故此処に?
気配が近付いて来る感覚がして、薄く瞼を開いた。

「…高杉、」
思い描いた通りの人物がそこにいた。高杉は俺が名を呼ぶと、唇を緩く孤にした。
暗闇の中で、それでも高杉の瞳は鋭く光る。
「よォ、銀時。久しぶりだな」
高杉の声が空気を震わし、静寂を破る。静かで、しかしそれでいて良く通る声。

すぐ側にいた高杉は、上体を起こそうとした俺を制し、俺の顔の横に手をついた。
「何だテメー、夜這いでもしに来たのか」
息がかかる程の距離で、高杉がくつくつと喉を鳴らして笑う。艶やかな髪が目の前で揺れる。
「そうだな、それも悪くない」

高杉のすらりと長い指が頬に触れる。元来体温の低い高杉は、その指もやはりひんやりと冷たい。じんわりと指が触れた所から、熱が奪われるような感覚がする。
互いに互いの瞳に視線を合わせる。息をする事も忘れて。視線を外さないまま高杉の顔がゆっくりと近付き、唇が重なった。
そしてまた、ゆっくりとした動きで離れる。
「目ぐらい、閉じろよ」
「お前こそ」
しかし互いに瞬きすら疎かにして見つめ合ったままだ。

その瞳に導かれるように、唐突に思い出した、今日が何の日なのかを。そうだ、高杉の誕生日だ。
それでわざわざ夜這いをしに来たってか?少し、頬が緩んだのを自分でも感じた。
そのまま目を閉じる。高杉の唇を促すように。
そして再び唇が重なった。今度は先程よりずっと優しく。先程より少し長く。

唇が離れ、目を開いた次の瞬間には高杉はもう窓辺に移動していた。俺は声をかける事もせず、ただその後ろ姿を目で追う。
俺の頬に触れていたその細い指が、今度は窓に掛かる。そして高杉は、一度もこちらを振り返る事なく窓から姿を消した。蝶が舞うようにひらりと、僅かな名残を残して。
高杉に触れられていた頬が、今頃になって思い出したように熱を帯びて来た。

「誕生日、おめでとう」
開け放たれたままの窓に向かって、一人呟いた。ありがとうと言う返答の代わりに返って来たのは、夏の香りを乗せた一陣の風だけだった。












闇夜に舞う、

















2009.8.10


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