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ティキは不意にそこに、アレンの目の前に現れた。彼の口は孤を描き、アレンは視線を鋭くした。
「…ティキ、」
威圧感を交えて名を呼んでも、彼はやはり笑んだまま。
「やあ、少年」
彼の口調は柔らかく、まるで親しい友人への挨拶のように、しかし取り巻く殺気がその錯覚を許さない。緊張した空気と彼のにこやかな表情が、壮絶な違和感を生み出す。
「何、しに来たんですか」
身構えながらアレンが問う。頬に一筋の汗が伝うのを感じた。
何しろここを少し進めば黒の教団本部があるのだ、緊張しない訳にはいかない。
いくら彼とて、無意味に敵のアジト付近に現れるとは思えない。返答によれば――もしも、本部に攻撃を仕掛けるつもりならば、此処で自分が何としても食い止めなければ。

「少年に会いたくなったから」
ティキは実に愉しそうに笑う。
「それは、どういう意味ですか」
彼の言う真意が読めず、再度問う。
「そのまんまだ、他意はない。少年に会いたくなったから来たまでだ」
それでも尚アレンは緊張を解かない。むしろ先程より殺気を強めた。そんなアレンに、ティキは思い出したように、ああと頷く。
「安心しな、今日は攻撃するつもりで来たんじゃないよ。教団にも、少年にもだ。千年公の命令じゃない。俺が少年に会いたかったから、俺の意志で此処に来た」
俺の独断だから、バレたら怒られるだろうな、とティキは些か乾いた笑いを漏らした。

「…それで、僕に一体何の用ですか?」
先程より幾分殺気を緩めたアレンが問う。問われてティキは、きょとんと目を丸くした。
「何ですか、その反応」
予想外のティキの反応に、アレンは訝し気に眉をひそめる。
「…いや。用事、ねぇ…。
俺はただ、少年に会いたいと思ったから来たんであって、会ってどうするかなんて全く考えてなかったな…」
顎に手を当て伏し目がちに言うティキは、それだけでとても絵になる。

「それってつまり、本当に僕に会いたいが為だけにわざわざこんな教団の近くに来たって事」
ティキは至って真面目な表情で頷く。アレンは思わず呆れて溜息をついていた。
「貴方、自分の立場わかってるんですか。不用意に敵の陣地のすぐ側まで来るなんて馬鹿ですか」
「確かに教養はねぇけど」
今度は意識的に溜息を吐く。
「せっかく少年に会いに来たんだから、もうちょっと喜んでくれてもいいじゃん」
「可愛い女の子ならともかく、仮にも敵対してる男にそんな事言われても嬉しい訳ないでしょう」
ティキがニヒルな笑みを浮かべると、アレンは綺麗なしかし冷たい笑顔で応える。

「まあいいや。また会いに来るよ、少年」
来なくていいです、そう言い終わる前にその言葉はティキの唇に掠め取られた。
「なっ、」
アレンが抗議の声を上げる前、次の瞬間にはティキは姿を消してしまっていた。

静寂が、戻って来た。
アレンの心臓を除いては。










会いたいからじゃあ駄目?













2009.7.14



あきゅろす。
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