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日付変更10分前。
俺は屯所を抜け出し、夜道を一人歩いていた。
普段ならば屯所でごろごろとテレビを見ているか、既に夢の中か、或いは例の上司暗殺の為に呪術に打ち込んでいるか。ともかくこんな時間に出歩く事なんて極稀だ。
昼間は溢れんばかりの日光が降り注ぎ夏を感じさせる程の暑さだというのに、日が落ちればすっかり気温も下がり風も冷たく感じる。

ううん、と一旦立ち止まって伸びをする。同時に空気を大量に肺に入れる。冷えた空気が肺を満たし、僅かに漂っていた眠気を取り払って再び外気に溶け出してゆく。



――日付変更5分前。



神楽と定春が眠ったのを見て、そっと家を後にする。この時間に出歩く事はそう珍しくはないので、あいつらは気付いたところで捨て置くだけだろうが。
何気なく空を見上げてみれば、飛行船の隙間から星が顔を出す。昔はもっと空を覆い尽くすように輝いていたのに、今は飛行船に隠れるように遠慮がちに光を放つ。
そんな風に視線をあちらこちらに散らしながら、ゆったりと歩き続ける。この季節のこの時間は散歩に調度いい気温だな。

24時間営業のコンビニの前を横切る。帰りはプリンでも買って行こうか。そういえば最近、金欠のお陰でプリン食ってなかったな。そう思うと無性に食べたくなって来た。よし、購入決定だ。
尤も、金欠は最近と言わず常々そうなのだが、今は棚に上げておこう。



――日付変更1分前。



視界に、銀髪を捉える。太陽の下でも綺麗なのだが、闇の中ではそれだけ世界から切り離された様に幻想的に揺れて、更に美しい。

旦那もこちらに気付いたようで、まだ顔もはっきりとは見えない程の距離なのにも関わらず、確かに目が合うのを感じた。

彼は焦らすようにゆっくりと、しかし確実に一歩ずつこちらに近付いて来る。その歩調に合わせるように、俺もゆっくりと足を運ぶ。
互いの顔がはっきり見えるようになっても止まらない。手を伸ばせば触れられる距離になっても、まだ。
俺自信もゆっくりと進み続ける。こつりと靴が旦那の物とぶつかった。そこで漸く足を止める。それでも俺達は距離を詰める。
旦那の息がかかる。どちらからともなく、瞼を閉じる。

あと1cm、あと1秒。

唇に柔らかい、温かい感触。
それを感じたのは僅かな時間で、次に俺が見た物は、視界いっぱいの旦那が優しく優しく微笑む姿。

「誕生日、おめでとう」


何処かで12時を告げる鐘が鳴った。













きらり、瞬いた

















2009.7.8


あきゅろす。
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