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(3Z)



授業終了5分前。おもむろに配られた原稿用紙。一応(ちゃんと国語を勉強したのは数える程しかないが)国語の授業だから、繋がりがないわけじゃない。
しかし、こんな授業終了間際に配って一体どうしようと言うのだろう。生徒達は皆同じ事を考えているらしく、それらの視線は教壇に立つけだるそうな男――国語教室、坂田銀八に注がれている。
その心中を知ってか知らずか、銀八はいつになく静寂が支配する3年Z組の教室内の空気を、自らの声で断ち切った。

「じゃあ、次の授業までに作文書いて提出なー」
詳細を全く欠いた説明だ。唐突にそんな事を言われて黙っている3Zの生徒ではない。新八が『先生、どういう事ですか』と声をあげると、それをきっかけに他の面々も口を開く。先程迄の静寂は何処へやら、3Zの教室はいつもの騒がしさを取り戻した。
「うるせーな。こちとら授業らしい授業してねぇから、平常点てもんが付けれねーんだよ。提出物出しとけば手っ取り早ぇんだよ」
「いや、何ぶっちゃけてんですか。だいたい作文って何書けばいいんですか」
「テーマは『自分が書きたい事』だ」
それって要はテーマフリーってことじゃないですか、あんた自分が決めるのめんどくさかったんだろ、という新八のツッコミが入る前に銀八はさっさと教室をあとにしてしまった。
こうなってしまっては書くしかない。…ただし、この個性豊かな3Zの面々にフリーテーマで作文など書かせた所で、収拾がつかない程ボケ倒した文章になるだけな気もするが。



そして数日後、銀八の手元には3Zの生徒が書いた作文があった。内容は予想通り支離滅裂な物ばかりで、点数の付けようもない。
銀八はブツブツと文句を言いながら、パラパラと適当に目を通していく。フリーテーマにしたのは間違いだったか、と頭を掻く。勿論それはこの課題を出す前に考慮すべきであるが、今となってはもう遅い。

そんな中、ふと一枚の原稿用紙が目に留まった。殆ど白紙に近いそれ。右端に、升目を無視して文字が書かれている。
それは、作文どころか文章と呼べるような物でもなく、たった一言、
好きです、と。
名前は書かれていなかった。しかし、予想はつく。
頭に浮かぶのは、今日も授業中アイマスクを付けて堂々と眠りこけていた彼。
「……何処が作文?」
コイツは0点だな、なんて言いつつも自分の頬に熱が集まっているのが嫌でも分かってしまう。

…さて、明日どんな顔をして教室に行けばいいものか。













よいこのこくご。

















2009.6.12


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