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(現代パロ)



『神田、駅前の喫茶店行きましょう!』モヤシが満面の笑みでそう言ったのは数十分前の事。疑問形ではなく断定形で言われたその言葉通り、反論は疎か問い返す事さえ許さず問答無用で連れ出された。
そして俺達は今、テーブルを挟み向かい合って席に着いている。モノトーンを基調とした、落ち着いた雰囲気の店内。
そういえば先程モヤシが何事か店員と話していたようだが、一体何の話だったのか。
「神田、何飲みますか?」
メニューをこちらに向けて広げながら問う。飲み物限定なのか。まあ、今の時間を考えれば妥当とは言えるが。昼食にしては遅すぎるし、夕食にしては早過ぎる。確かに喫茶店に来るには調度良い時間かもしれない。
「何でもいい」
「それじゃあ、コーヒー二つお願いします」
愛想良く笑いながら注文するモヤシに、店員も笑みをもって答える。かしこまりましたとマニュアル通りの返答をして店員は踵を返した。

そして5分もしない内にコーヒーが運ばれて来た。俺達の前に並べられるコーヒーカップ。しかし、運ばれて来たのはそれだけではなかった。
「おめでとうございます」
微笑みながら店員がテーブルに置いたのは、チョコレートケーキ1ホール。それをテーブルの真ん中に置くと、店員は再び持ち位置に戻って行った。
しかし、こんな物頼んでいない筈だ。それに、何がめでたいと言うのだろうか。今日は何かの記念日だったか?

「わー、美味しそう!」
「おい、どういう事だ?お前が注文したのか?」
「この喫茶店、誕生日に予め予約しておくとケーキをサービスしてくれるんです」
「…誕生日?」
俺が問い返す事は予想済みだったらしい。モヤシは呆れの色を含んだ笑みで答えた。
「今日は6月6日、神田の誕生日ですよ」
「…ああ、」
そういえば、そうだ。特に関心がなかったせいか、綺麗に頭から抜け落ちていた。

「いただきます」
そんな俺を差し置き、モヤシはさっさとケーキに手を付け始めた。
「…って、お前が食うのか!?」
「いいじゃないですか。どうせ神田、甘い物嫌いでしょう?」
それはその通りだが、ならなんだ、俺はケーキの為だけにわざわざ此処に連れて来られたのか。
「一口あげましょうか?」
一掬いのケーキを乗せたスプーンがこちらに差し出される。
「いらねぇ」
俺がそれを跳ね退けると、モヤシは残念そうな、しかし楽しそうな表情を浮かべてそのスプーンをくるりと方向転換し、自らの口に運んだ。


「そうだ、神田」
ふとモヤシがケーキを食べる手を止めた。ケーキはいつの間にか4分の1程の大きさになっていた。5分足らずでよくこんなに食べれるものだ。
なんだ、と視線で問えばモヤシは目元を僅かに緩め、どこか大人びいた笑みを作った。その表情に、不覚にも俺の心臓は高鳴った。

「誕生日、おめでとう」










ケーキよりも甘い甘い













2009.6.5



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