今朝任務から帰って来たばかりの白髪の少年は、資料とにらめっこしながら報告書を作成している最中だった。 ソファに腰掛け、黙々と手を動かす。その室内を静寂が満たす。 聞こえるのは、文字を綴る無機質な音だけ。 が、それも長くは続かない。 「アレンーー!」 少年を呼ぶ声がする。 と同時にやや乱暴に、勢いよく開かれた扉。 開かれた勢いのまま壁にぶつかり、跳ね返った所を軽く右手で勢いを殺して止め、赤い髪を弾ませながら一人の青年が室内に足を踏み入れた。 「ラビ。」 アレンは手を止めて、青年に目を向けた。 「おかえり!」 溢れんばかりの笑顔で言うラビに、アレンの顔も自然と綻ぶ。 「ただいま。」 穏やかな笑みを浮かべて言えば、ラビは満足気に頷いた。 「アレンに会えなくて寂しかったさぁー」 おどけたような口調で言いながら、アレンの後ろに回り包み込む様に抱きしめ、座ったままのアレンの頭に顎を乗せ、体を預ける。 「はいはい、そうですか。そんな事より、重いんですけど。」 冷たいさぁ。 そう言いながら動こうとはしない。 アレンも無理矢理にでも引きはがせばいいものを、それをしない。 おどけた口調で言ったものの、先程の言葉に嘘はない。アレンがいなかった数日間、浮かぶのはアレンの事ばかりだった。 …否、寂しい、とは少し違うかもしれない。 今、何してるんだろう。 声が聞きたい、優しく鼓膜を震わすあの心地良い声を。 顔が見たい、暖かく胸に染み渡るあの笑った顔を。 会いたい、安らぎをくれるあの愛おしい子に。 心が、体が、アレンを渇望していた。 久々に腕の中に感じる温もり。 光に透ける髪も、少し頼りない細い肩も、神が宿った赤い左手も、雪の様に白い右手も、今は全てこの腕の中に在る。たったそれだけで、心が満たされる。 縮む、と文句を言いながらもその腕から抜けようとしないアレンも、同じ。 大きな温もりに包まれながら、会えなかった時間分の寂しさを埋めてしまおうとしていた。 それ以上の安らぎを感じていた。 再び室内を静寂が満たす。 聞こえるのは、生を刻むお互いの心音だけ。 そこに在るのは、絶対的な暖かさだけ。 今は、それだけ 2009.2.25 |