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「ななは…」
七原、と呼び掛けかけて途中で口を閉ざした。ちょっと、待たせ過ぎたかな。
今日は休日で七原の部活もオフらしいので、七原がうちに遊びに来ていたのだが、生憎客が来てしまいしかも家族が出払っていたので、俺が応対していた。
客は向かいのおばさんで家族旅行のお土産を持って来てくれたのだが、流石と言うべきかよく喋る。マシンガントークとでも言えばいいだろうか。
そんなわけで、20分近い時間を割いてしまい、申し訳なく思いながら部屋で待っている筈の七原の元へ向かった。

扉を開けると目に飛び込んで来たのは、机に伏して眠る七原の姿。呼び掛けた声を途中で遮断した。
なるべく音を立てないように、そうっと七原の元に近付く。規則正しい寝息だけが部屋に響く。
七原の向かいに腰を下ろすと、腕の間から僅かに寝顔が見えた。とても気持ちよさそうに眠っている。
起こすのも悪いと思い、僅かに窓を開けてから再び腰を下ろす。爽やかなそよ風が舞い込み、ふわり、七原の柔らかく綺麗な髪を揺らして行った。

読み掛けだった本を取り出し続きを読もうとしたが、どうにも七原が気になる。
すやすやと眠る姿は、下手な例えだがそれこそ天使の様だ。
赤みの差した柔らかい頬、それに影を作る長い睫毛。起きている時のくるくると変わる表情もいいが、寝顔も負けず劣らず可愛い。
気付けば手を伸ばし、七原の色素の薄い髪に触れていた。さらさらと滑るように、七原の髪は指の間から流れていく。
柔らかいその感触を楽しむ様に、2、3度髪を掬っては落とすという行為を繰り返した。

「ん…」
七原が声を漏らしたので、反射的に手の動きを止めた。起きたのか?
…どうやらそうではないらしい。もぞもぞと動いた後、猫のように俺の腕に擦り寄って来た。
「七原?」
一応呼び掛けてみるが、返事はない。
そのかわり、なのか、七原がふにゃりと笑った。
七原が動いたお陰で障壁がなくなり先程より七原の顔があらわになっていたため、その笑顔を直視してしまった俺は思わず見とれていた。
「七原…その笑顔は反則だ」
だから、額にキスするのぐらいは許してくれないか?










眠り姫に口づけを














2009.5.23


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