[携帯モード] [URL送信]
 




修練場で、モヤシに出くわした。自分の気持ちを――モヤシ、もといアレンの事が好きだという事を認めた今となっては、顔を見ただけで嬉しいと、感じるようになっていた。

しかし、様子がおかしい。
モヤシを発見してそちらに目を向けた。すると、視線を感じたのかこちらに目を向けたあいつとバチリと目が合ったのだ。普段であればそのまま声をかけてくるか、げ、とでも言うように眉をしかめるか、何にせよこちらに向けて何らかの反応を示すのだ。
それがどうした事か、俺と目が合うなり「あ、」と声を漏らしたかと思うと、勢いよくあからさまに視線を逸らした。

確かにあいつに好かれているとは思ってはいないが、そんな反応をされる程嫌われているとも思っていない。少なくとも、仲間としては認められていると、そう思っていた。それだけに、この反応は中々にショックな物だった。
何か、そこまで嫌われるような事をしただろうか。昨日些細な言い合いはしたが、口喧嘩なんていつもの事で嫌われる原因にしては今更過ぎる。

胸の中に暗雲が立ち込める。あれやこれやと思案するようなタイプでもないので、とりあえずモヤシの元へ向かった。
「オイ」
間近で声をかけると、肩がびくりと揺れた。
「なんですか」
答えたけれど、目を合わせようとしない。俺の首元辺りに視線をさ迷わせている。
「それはこっちの台詞だ。なんなんだよ」
口調が少しきつかったかもしれない。いや、いつもの事か。
とにかく、俺が言うとモヤシはきっと視線を鋭くしながらも、漸く俺の目を見た。その瞳は強い光を宿しながらも、何処か頼りなさ気に揺れているようにも見える。
何か反論してくるのか、そう思ったがどうも違うらしい。俺と視線を合わせたのはほんの僅かな時間で、瞳を大きく揺らした後再び視線を落とした。

「―――」
モヤシが口の中で何か呟いたらしい。しかし、それは俺が言葉として聞き取るには音量が小さすぎる。
「オイ、」

「カンダの事が、好きなんです」
予想外にも程がある。何を言い出すんだコイツは。しかし、嘘をついているようには見えない。どういう事だ?
状況について行けず、しばし固まる。そんな俺に対し、モヤシは何かふっ切れたように言葉を続ける。
「昨日、気付いたんです。最近ずっとカンダを目で追ってて、なんでだろうって考えて、そしたら気付いたんです。」
顔を赤く染めながら話すモヤシは、文句なしに可愛い。いや、注目すべきはそこじゃない。
どうやら、本当にモヤシ俺の事が好きらしい。
こんなに硬直したのは初めてじゃないだろうか。そんな俺の反応をどうとったかは分からないが、更に言葉を続けるモヤシ。
「カンダは、僕の事嫌いなんでしょう?軽蔑してくれて構いません。僕は、伝えられただけで満足だから」

ったく、どこまで鈍感なんだ。
ムカつく事にこの間あのバカ兎に『ユウわかりやすすぎるさぁ』と言われたばかりだ。隠すつもりはなかったが、行動を起こすつもりもなかった。それでも周りの連中にはバレバレだったらしい。
気付いていないのは、当のコイツぐらいのものだ。
「嫌いなわけないだろ」
「…え?」
「嫌いだったら、わざわざ声かけたりするかよ」
「でも、顔合わせたらいつも喧嘩ばかりじゃないですか」
「それは馬が合わねぇんだから仕方ないだろ」
「な、」
俺達は相性は良くない。それは承知してる。
「それでも、俺はお前が好きだ」

元々大きな目が、更に大きく見開かれた。頬の赤みは、耳にまで達している。
「嘘、」
「チッ、なんでこんな嘘つかなきゃならねぇんだよ」
嘘で俺がこんな事言うかよ。

「もう一度言う、俺はお前が好きだ」
大きく見開かれていたモヤシの瞳がゆらり、揺れる。眉をハの字にして、ふにゃりと口元を緩めたモヤシ。顔をくしゃくしゃにして笑っている。
「僕も、好きです」
その笑顔は、俺が今まで見たどれよりも綺麗だった。









抱きしめたい程に














2009.5.16


あきゅろす。
無料HPエムペ!