室内に目覚まし時計の電子音が響く。それに従って、緩やかに意識が浮上する。窓から差し込む朝日が室内を満たしている。寝ぼけ半分で目覚まし時計を止めると、思い切り伸びをする。ついでに大きな欠伸も一つ。 ベットから下り、慣れた手つきで制服に腕を通す。もう一度ベットに腰掛け靴下を履いたら準備完了だ。 功兄は僕が登校するまでには起きないだろうから、朝ご飯は適当でいいか。そんな事を考えながら、リビングに足を踏み入れる。 すると、何時もそこにはない白い紙が一枚、テーブルの上に置かれていた。なんだろう。僕には全く心当たりがない。 とりあえずその紙を手に取ってみると、二つに折り畳まれていて中に何か文字が書かれているらしい。特に深く考えず開いてみた。すると『将へ』という文字が目に入った。 功兄の字だ。癖のない綺麗な字体。その字体で綴られているのは僕への手紙のようだ。 何かあったっけ。考えてみるが分からない。とにかく手紙を読んでみよう、そう思い紙上に視線を落とした。 将へ 直接伝えたかったけど、多分お前が家を出るまでに起きられないだろうから、手紙で伝えとく。 昨日の晩に書いたのかな。でも、なんだろう、伝えたい事って。 再び視線を落とし、目で文章を追う。 今日中にちゃんと直接伝えるけど、俺が一番最初に伝えたくてさ。 将、誕生日おめでとう。 「あっ…」 思わず声が漏れた。そういえば、今日は僕の誕生日だ。すっかり忘れてしまっていた。 そうか、それでこんな手紙を…。 『おめでとう』という文字列を、今度はなぞるように、再び黙読する。 たった5文字。されど5文字。その1文字1文字が、僕を祝っているかのようだ。気持ちが篭められているのがよく分かる。 ただただ純粋に、嬉しいと思った。誕生日を誰かに祝ってもらえる事が。言葉より何より、その気持ちが嬉しい。 時間が無いので、そこらにあった紙とペンを適当に手に取った。 功兄のような綺麗な字は書けないけれど、いっぱいいっぱい感謝の気持ちを篭めて5つの文字を書き綴った。少しでもこの気持ちが功兄に伝えるように。 ありがとう 5文字のメッセージ 2009.5.9 |