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「ちゃおっす、ヒバリ」
「赤ん坊」
口元に笑みを浮かべ、彼は窓枠にちょこんと立った。声が発せられるまで、気配すら読み取れなかった。全くこの赤ん坊は神出鬼没で、その実力は図り知れない。中々面白い人物だ。

「お前今日誕生日だろう?」
「そうだよ」
休日のついでに覚えた、自分の生まれた日。そんな事にさしたる興味は無いのだけれど、彼が口にするからには何か意味があるのだろう。視線で続きを促すと彼はいっそう笑みを深くした。

「プレゼントだ」
ドサリ、彼の言葉と共に見覚えのある子が部屋の中に投げ込まれた。赤ん坊以上に僕の興味を引いてならない草食動物。
調度最近、この子の事が執拗に頭に浮かんで困っていたのだ。この手でこの子を壊したいと思うと同時に、この子を綺麗なままずっと傍に置いておきたいと思う。全くもって自分の感情が理解出来ないでいるのだ。

「リボーン!何なんだよこれ!」
彼はまだ僕に気付いていないらしい。
一体何処に隠していたのか、赤ん坊に投げられ突如現れた彼。その体には赤いリボンがぐるぐると巻かれ、彼は身動きがとれないらしく床にごろりと転がっている。
どうにかリボンから脱出しようとのたうちまわっているが、勿論何の効果もない。
そんな彼には目もくれず、赤ん坊はこちらに視線を寄越した。この赤ん坊の表情はひどく読み取りづらいのだが、瞳に微かに愉しそうな色を浮かべているように見えた。
「ヒバリ、俺からの誕生日プレゼントだ」
赤ん坊の言葉に、それまで騒いでいた彼が固まるという表現が相応しい程、本当にピタリと動きを止めた。こちらからは表情は見えないが、青ざめながら冷や汗をかいているのが容易に想像出来る。
「中々面白いプレゼントだね」
赤ん坊に応えるように、僕も口元を緩める。僕の声に、彼は大きく両肩を揺らした。
わざと足音を立てて一歩近付く。すると彼はぎこちなくゆっくりと首を回し、顔だけこちらに向けた。彼と視線がかち合った。
色素の薄いその大きな瞳は僕を映して不安気に揺れた。長い睫毛の隙間から、今にも零れ落ちてしまいそうだ。
「俺からのプレゼントなんだから当然だぞ。じゃあな」
言い捨てるようにそれだけ言って、赤ん坊は颯爽と姿を消した。
あとに残された彼は草食動物そのもののように怯えている。
「ひ、ひひひひヒバリさん…!」
吃りすぎ。彼はせわしなく視線をさ迷わせている。

「え、えーっと、誕生日おめでとうございます…」
声は尻すぼみに小さくなっていったが、確かに僕を祝う言葉を言った。少し意外だった。こんなに怯えきった彼から、そんな台詞が吐かれるなんて。
ふっと空気を和らげて微笑んでやると、彼はぽかんと口を空けてこちらに焦点を合わせて固まった。
「(めちゃくちゃキレイ…!)」
「ありがとう。…プレゼントなんだから、僕が好きに使っていいんだよね」
微笑はそのままに、少し威圧感を出して言えば彼は僅かに緩めていた頬を引き攣らせた。
「え、ええ?ヒバリさん?」
一歩一歩近付く度に逃げ腰になっていく彼の怯えた表情を見るのが堪らなく愉しい。ホント、あの赤ん坊には感謝だね。
こんなに愉快な誕生日は初めてだ。










赤いリボン














2009.5.5


あきゅろす。
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