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(学パロ)



昼食を食べ終え、中庭で一人本を読み耽っていた。此処は案外人が少なく、時折遠くで笑い声が聞こえる以外は、風に揺られた葉がカサカサと音を立てるのくらいがBGMだ。
その音を掻き乱す音が一つ。
どうやら足音らしいが、酷く不規則だ。それは徐々に近付いて来ているのだが、休み時間もあと15分となった今、こんな人気の少ない中庭に来る理由もそうそう見当が付かず、意識を文字からその音へと移した。

視界の端に、真新しい靴が目に入った。この学校指定の物だ。滑らかに光るそれを見ると、入学したての一年生なのだろう。
何気なく視線を上げてみた。
風に揺れる、サラサラとした白い髪が目を引いた。此処はバラエティ豊かな髪のやつ(俺も含め)がいるが、白髪は初めて見る。
頭がせわしなく左右に動いている。先程得た新入生らしいという情報と組み合わせてみれば、答えは簡単に出た。彼は道に迷っているのだ。
そうだと解れば、ここはやさしーい先輩として一肌脱ぐしかないだろう。ちらりと横目で本の頁数を確認し頭に入れると、ぱたりと閉じて立ち上がった。

「何処に行きたいんさ?」
「…へ?」
位置確認でいっぱいいっぱいだったらしい彼は、一拍置いて声をかけられたのは自分だと気付いた。
顔をこちらに向けた彼と視線がかち合う。その瞳はとてもとても澄んでいて、どくんと心臓が音をたてた。
「あ、あの、1−Aって何処ですか」
1−Aの生徒なのだろうか。しかしそれなら自分の教室ぐらい把握していそうなものだが。一体何処から戻る途中なのだろう。
「1−Aならこっちの校舎の3階の一番端っこさ。校舎にはそこから入るといい。」
俺の真後ろにある年季の入った校舎を指差して言う。そこには渡り廊下があって、そこから校舎内に入れる。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げたあと、満面の笑みを残して彼は校舎に小走りで向かっていった。
その笑顔を見た俺の心臓は、バクバクと煩く音を立てた。


授業開始10分前。予鈴の音と共に中庭をあとにした。どうしてか、あの白い子の笑顔が瞼から離れてくれない。とても綺麗な笑顔だった。

「――あれ?」
教室への近道のこれまた人通りの少ない廊下を歩いていると、忘れもしない、白髪の少年を見付けた。彼はどうにも先程より焦っていた。
「どうしたんさ?」
俺の声にはっと顔を上げた彼は、半泣きになってい。
彼の顔には、安堵と焦りの色が浮かんでいる。
「此処、何階ですか…!」
あまりに必死なので、キョトンとしてしまった。
「1階、だけど…もしかして、まだ1−Aに辿り着けてないんさ…?」
彼はばつが悪そうに、小さく小さく頷いた。しかし一体どう迷えばこんな所に来るのだろうか、相当な方向音痴らしい。
休み時間もあと5分を切っている。どうせ道を教えたところでまた迷うだろう事は目に見えている。
「こっちさ。ちゃんと道覚えながらついて来いよ。」
「…へ?」
彼の横を通り過ぎ歩き出したのだが、当の彼は立ち尽くしたまま。振り返れば、首を傾げてこちらを見ていた。

「同じ方向だから、案内してあげるって言ってんさ」
「あ、ありがとうございます、先輩!」
俺の背中を追って来る彼。先輩呼びにぐっとくる。
彼に歩調を合わせて歩く。

先輩と後輩って関係も悪くないな、――そんな事を考えながら。









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2009.4.18


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