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「ラビ…っ、」
目に涙を溜め、悲痛そうに顔を歪めた愛しい子が俺の名を呼ぶ。
潤んだ瞳で上目使いで見つめられるのはかなりぐっとくる。しかしどうやら悶えているような状況ではないらしい。
脳みそをフル回転させて考えてみるけど、彼がそんな表情をする理由には行き当たらない。俺の知らぬ間に何かあったのだろうか。
「アレン?どうしたんさ?」
戸惑いながら尋ねると、彼は俯いて辛そうにその大きな瞳を伏せた。澄んだ銀が閉ざされ、長い睫毛が彼の頬に影を落とす。
「アレン…?」
俺が呼ぶと、視線を俺とは合わせずあちこちにさ迷わせながら、顔をゆるゆると僅かに上げた。小さな桜色の唇を開いて何か言葉を紡ごうとしているらしいが、空気が漏れるばかりで音にならず、彼は再び口を閉ざした。
そんな行動を3度繰り返し、4度目に意を決した様に瞳を上げた。宝石のような銀に光る瞳の中に俺の姿が映る。その俺の姿が確認出来る程間近にある彼の顔に、心臓が多少煩くなるが、真剣な表情の彼の手前、ポーカーフェイスを取り繕う。



「僕…っ、明日、母星に…火星に帰らなくちゃいけないんです…!」



「…………はぁ?」

たっぷり5秒、間を空けて口を出たのはたった一言。
さらに言うならば、目は点、口はぽかんと開いている。彼の言う意味が全く理解出来なかった。いや、言葉の意味は解るのだが、その言葉の背景が全く解らない。
そんな俺の様子を察してか…、いや、そういう訳ではないらしい、とにかく必死な様子で彼は一気に畳み掛けるように言葉を続ける。

「僕、ほんとは火星人なんです!留学みたいな物で地球に来たんですけど、その期限が明日までなんです…。明日、迎えが来るって…」
ただ呆然と彼の話を聞いていた。何を言っているんだこの子は。えらくぶっ飛んだ話だな。何度も彼の言葉を反芻してみても、一向に理解出来ない。
アレンが火星人?明日…4月2日に母星に帰る…?いや、待てよ。そういえば今日は4月1日だよな…。
目の前には今にも涙を零しそうなアレン。聞かされたのはリアリティのない話。
まさか…、まさかとは思うけど…、
「アレン…、もしかして、あの、エイプリルフールの…?」
怖ず怖ずと尋ねてみると、彼は大きな目を更に大きく見開いた。
そしてふっと表情を緩めた。
先程までの辛そうな表情は跡形もなく消え、涙までもがいつの間にか乾いている。

「なーんだ、案外早くばれちゃいましたね。つまんない。演技は中々自信あったのになぁ…」
ころりと表情も態度も変わった。シリアスなムードはかけらも残っていない。何このギャップ。
残念そうに呟く彼。やっぱり演技だったのか。確かに演技力は半端なかった。っていうか、あの表情は狡い。反則だろ。

「…チッ」
あれ今この子舌打ちした?えええキャラ違うだろ、ていうかなんか背後に黒い物が見えるんですけどイカサマしてる時を彷彿させるんですけど!
ちょっとアレンさん何処行くんさ?爆弾投下して行かないでくれる!
俺の(心の)叫びを無視して彼はさっさと背を向け行ってしまう。
思考回路の停止した俺は暫く此処から動けそうにない。










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2009.4.1


あきゅろす。
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