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ぶらりぶらりと歩を進める。
今日は特に用事もないし、サボりではなくちゃんと仕事も休みなので旦那に会いに行こうかと春の朗らかな陽気の中を歩いていた。

目の前を淡いピンクの花びらが横切った。風に踊る様にひらりひらりと舞う。それが大地に触れるのを見届けてから、舞って来た方向を辿って目を向けると、枝いっぱいに花を咲かせた一本の桜の木。
普段花に関心を向ける事など無いに等しいのだが、何故だかその花は俺の目を惹き付けた。空を覆う様に咲くピンク色が、その隙間から漏れる青に良く映える。
気付けば足は止まり、ただただその桜を目に映していた。




―――


この前うちに来た時、彼は今日休みだと言っていた。わざわざ俺の前で其を言ったのだから、今日は俺に会いに来るつもりだろう。
そう思いながら過ごしていたのだが、昼を過ぎても現れる気配がない。
何か急な仕事でも入ったのだろうか、あれこれ思考を巡らせるが、当然正解は分からない。
ちゃんと約束はしていなかったものの、今日は会えるものだと思っていたから無性に気になる。このまま此処に居ても手持ち無沙汰なだけだ、それならいっそ外に出て彼を探しに行こうか。
思うが早いか、さっさと席を立ち神楽と新八に散歩してくると声をかけると、二人の返事を背に受けながら万事屋を後にした。

さて、何処に行こうか。真選組屯所の方へ歩いて行けばどこかでかちあわないだろうか。短絡的だが一番可能性のある道だ。
おおよそのルートを決めて歩き出す。随分暖かくなって来たものだ。陽射しが心地良い。自然と歩みもゆっくりになっていく。
あちこちで色とりどりの花が咲いていて、春を実感させる。
名目上だけでなく、本当に散歩に出て来たような気分になってきた。それでも、隣に彼が居ればもっといいのにと考えてしまっている辺り、どうやら目的地の変更はなさそうだ。


ふわり、鼻先を桜の花びらが春の香りを漂わせて掠めていった。風流だなと思いながら視線を上げれば、桜の木が一本。
…それと、見慣れた後ろ姿。






―――


「そうやってると絵になるな」
春風に紛れて鼓膜を揺らす優しい音色。
「旦那」
何時からそうして居たのか、ずっと眺めていた桜から目を離し、隣に立つ人に視線を向ける。
彼は穏やかな表情で、優しい視線を桜に向けている。
「綺麗だな」
愛おしそうに彼が言う。その表情を見ていると、この桜が本当に美しいものに思えた。事実綺麗なのだが、なんだか神聖な美しさがあるような感じがしてきた。
神仏の類いなんてこれっぽっちも信じていないのだけれど、彼があまり愛おしそうにそう言うものだから、俺が目を奪われたのもなんだか納得出来るような気がする。
「綺麗、ですね」
再び桜に目を向ける。ああ、綺麗だ。


「ま、俺は花より団子。団子よりパフェだけどな。」
桜から目を離し何を言うかと思えば、あまりに旦那らしい。
「何言ってんでぇ」
「パフェ食いてぇぇええ!!」
暗に奢れと言っているのだろうか。そんなに露骨に言うのなら、素直に奢ってくれと言えばいいのに。
溜息を一つ零して歩き出す。
「沖田くん?」
突然歩き出した俺を不審に思ったのか、彼の声が背後からした。
振り返って見れば、彼はまだ桜の下に佇んでいた。
――自分の方が絵になるじゃねぇか。
銀が桜色に溶けてしまいそうで、儚くも美しい。


「甘味屋に行くんでしょう?早くしないと置いて行きやすぜ。」
どうにも俺は彼に甘い。惚れた弱みというやつだろうか。
「きゃー沖田くん大好きー」
棒読みで言う彼をはいはいと流して再び歩き出す。

彼の銀の髪に埋もれた一枚の桜色の花弁は暫くそのままで。













はるいろ

















2009.3.30


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