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かたり、隣の席に食器を置く音がして、テーブルの上に影が落ちる。
「アレン、隣座ってもいいか?」
馴染みのある声に顔を上げれば、大好きな彼の顔。
「リーバーさん!もちろんいいですよ。」
笑顔で言った僕に笑顔を返して彼は腰を下ろした。今は午後3時、僕は紅茶とケーキを口にしているが、彼のお皿の中を見る限りティータイムという風には見えない。
「今から昼食ですか?」
尋ねると彼は苦笑いしながら頷いた。
「さっき漸く一段落ついた所。食べ終わったら直ぐまた再開だけどな。」
そう言う彼の顔には隈が出来ている。また徹夜だったんだろうな。
「お疲れ様です。」
心からの言葉。それが分かったらしく、僕の言葉に彼はもう一度苦笑いを零した。


「アレンも昨日帰って来たばかりだろ?お疲れさん、
おかえり。」
「…た、だいま。」
どうにも、この挨拶のやり取りにはまだ慣れない。何となく擽ったくて、照れてしまってぎこちなくなる。

「わ、リーバーさん…?」
唐突に頭に置かれた彼の大きな手。自分の髪と彼の腕の影に遮られ、視界が狭く暗くなる。
驚いて呼び掛けても、彼からの返事はない。一体何が何だか分からず顔を上げようとした、が、痛くない程度に、押さえ付けるように力を入れられ頭を動かせない。
混乱し疑問符を並べていると、頭に掛かる負荷が突然なくなった。しかし、僕が顔を上げる前に彼の手が戻って来た。そして、二度ぽんぽんと僕の頭を優しく叩き彼は手をテーブルの上に戻した。
慣れない仕種(こういうのってスキンシップ、っていうのかな)に僕がわたわたと戸惑っていると、彼は何事も無かったかのように食事に戻っていた。
「リーバーさん?」
「紅茶、冷めちまうぞ。」
問い掛ける様に名を呼ぶが、彼はそれだけ言って再び箸を動かす。
それらが彼なりの照れ隠しだなんて、その時余裕が無かった僕は気付く事はなかった。
そうして暫く見ていたが彼が顔を上げる様子はないので、僕もケーキに手を付ける。
嗚呼、やっぱりなんだか擽ったい。



彼はよっぽどお腹が空いていたようだ、僕がケーキを食べ終える迄に全て平らげてしまった。いくら僕がホールケーキを食べていたからとはいえ、結構な速さだろう。まあ、何時からかは分からないがついさっきまで相当な時間ぶっ通しで働いていたのだろうから無理もないか。
そういえば先刻仕事が残ってるって言ってたな。ゆっくり休憩している暇はないらしく、お茶を飲み干した所で直ぐ立ち上がった。
「アレン、悪いけど先行っとくな。」
ちゃんと僕に声をかけてくれる所が彼らしい。
「はい。頑張って下さい。」
彼は微笑むと、先程と同じ様に僕の頭を二回優しく叩いた。やっぱり、まだ擽ったい。
でも今度は、遠ざかって行く彼の背中を笑って見送れた。小さな進歩。

カップを手に、コクリ、紅茶を一口飲んだ。









僕にとっての非日常













2009.3.22



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