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例の如く市中見廻りをサボっている時の事だった。
時折飛行船が過ぎる青い空。日光が申し分なく注がれ、桜咲くこの季節に相応しい穏やかな陽気だ。

どこか土方コノヤローにも他の隊士達にも見付からない、絶好のサボり場所はないものか。こんなにいい天気だというのに仕事なんて不粋じゃないか。やる気なんて起きる訳ないだろう。
いや、元々やる気なんて殆ど持ち合わせていないのだけど。

そんな事を頭に巡らせながら、足の向くまま気の向くままぶらぶら足を進める。所狭しと並ぶ店々の中でふと目に入って来たのは一軒のどこか暖かい雰囲気を漂わせる喫茶店、―――否、その喫茶店の看板に書かれた『ストロベリーパフェ』という文字だった。
何故目に入ってきたか、理由は明白だ。

文字を見た瞬間、脳裏を掠めた銀色。
それが理由。

…そうだ、あのどこか掴み所のない旦那は、糖尿になる程甘い物が好きだったな。
その文字を見ただけで連想してしまう程、俺はあの旦那に夢中なのだ。これはかなりの重症だろう、しかし俺は脱する術を知らない。


気付けば足は止まり、目はその文字列に囚われっぱなしだった。行き交う人々が不思議そうに、あるいは迷惑そうに、またあるいは不審そうに俺を見ながら通り過ぎて行くのなんて、全く視界に入らなかった。
とにもかくにも、本日のサボり場所は此処で決定だな。



俺がそんな心算をしたその刹那の事だ。
忽然と視界に現れたのは、先刻脳裏に描いたばかりの、銀色。


「あれー?沖田君じゃん。」
緩く間延びした声で紡がれる俺の名。

「! だんな、」

謀った様に現れたその人に、内心動揺を隠せない。

俺ァ、本来そんな事考えたり信じたりする質じゃあないのだけれど…、これって…、これって、

運、命…、

ってやつだと思っても、いいんですかィ?



「今日はタダでストロベリーパフェ食べれる気がしたんだよなー。やっぱ来てみて正解だったぜ。」
ぬけぬけとそんな事を言う眼前の人に呆れた顔を作ってみせるが、胸中を支配するのは幸福感のみ。
この旦那と居ると、俺は今まで味わった事のない気持ちを沢山知る。
たった一人の人間と言葉を交わす事でこれ程までに心が弾むなんて、生まれて初めての体験なんだ。

「どういう意味ですかィ、俺に奢れと?」
「物分かりが良くて助かるよ。ホラ、何かの縁だと思ってさ。」

そう言って微笑してみせる旦那に敵う筈もなく、それ以前にこれを口実に旦那と一緒に居られるという思いが強い。
この誘いに乗る理由はあれど断る理由なんて存在しないのだ。
見廻り?俺はサボるのが常だから構わないんでさァ。
今頃何処かで立腹しているであろう上司に、心中で言い訳にもならない戯れ事を吐き捨てる。
天秤にかける相手が悪かったのだ。今の俺に、旦那と過ごせるという事に勝る物はないのだから。


「しょーがないですね。」
「サンキュー」
何だか餌付けしてるみたいだ、笑顔の旦那を見ながら思う。
パフェ一つで旦那の笑顔が見れるなら、安い物だ。






「…ま、ホントは沖田君と会えそうな予感がしたから来てみたんだけど。」
不意打ちだ。
店のドアを開く直前、旦那が独り言のようにぽつりと言った言葉に、当分俺の心臓は落ち着いてくれる様子はない。

期待、してもいいんですか






偶然?それとも、













2009.2.21



あきゅろす。
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