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君の側で
6

「ふぅ〜…極楽ぅ〜」

年寄りのような事を呟いて肩まで湯舟にどっぷりと浸かる。

(……。)

いつもより響く声は壁にぶつかり、何重にも反響してやがて消えていった。
完全に音をなくした浴室に一人。やけに虚しい気持ちになる。


静寂を取り戻したことで思い出されるのはやはり横山との一連のやり取りであった。

ファーストキスというわけでは勿論なかったのだが、男性に言い寄られキスをされたことなんて一度もない。
正喜に思いを寄せているだけであって同性愛者ではないので、あまり気分が良いものではなかった。

(覚悟しとけって言ってたけど…)

明日からどんな顔して会えば良いのか分からない。しかも横山は担任なので避ければいい、というわけにはいかないのだ。

(どーしよ…)

ぐるぐると考えてしまう自分に嫌気がさしたので、さっさと湯舟から上がる事にした。




朝、いつも通りに登校し自分の席に着く。
満開の桜が散っていく様子をぼんやり眺めていると、横山が教室に入ってきた。

「お前ら席に着けー。」

みんなが席に着くと朝のHRが始まる。
横山がだるそうに一通りの連絡を終えると号令が掛かる。

その号令に合わせふらりと席から立ち上がり、何気なく前を向くと横山と目が合う。
ずっと裕也のことを見ていたようだ。

何故だか目が離せないでいると横山は意味ありげにニヤリと笑う。
それは「覚悟しとけよ」と言ったあの時の表情と一緒だった。裕也は表情を歪め慌てて目を逸らした。


そうしてる間にも号令は終わり、みんな授業の準備に取り掛かっていた。

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