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08自分次第を風まかせ:不破



「という訳で、家でることにした」
「は?」


常人なら誰もが連想する因果関係のようにお前が話すから、僕は自分の感覚がおかしいのかと考えた。だって、今三郎はお母さんが再婚することになったっていうおめでたい話をしていたはずだったのに。

「なんで家を出る話になったの」
そう尋ねると子どもに諭すような口調で三郎は話し始めた。(うわ、むかつく)

「いいかい、雷蔵。俺達のあの狭いマンションに新たな住人が加わるんだ。それも、うちの母親をかろうじてだが女と認識しているような男だ。そんな二人の中に俺がいる姿を想像してみろ。どうだい?」

「…なるほどね。甘い生活を送る二人にストレスがたまり、たまったストレスを発散しようとその男の人の弱みを握って遊ぶ悪ガキの顔が浮かんだよ」

「さすが雷蔵だね。君は俺のことを誰よりも理解しているね」

「したくなかったけどね。できちゃったね」

そういう事なら合点がいく。三郎なりの気の使い方だ。一緒に住んで気を使えるほど融通のきく性格ではないと分かっているんだろう。なんだかんだで再婚相手と仲が良い三郎は二人が一番過ごしやすい、それでいて自分とも良い距離を測れる場所を選択したのだ。

「だから雷蔵も家を出ないか?」

「なんで」

「冷たいな、兄弟同然で過ごした従兄の俺に向かって」

「だって僕達の家から大学まで原付きで20分だよ?そんな近くて便利な実家暮らしから出る意味ないだろ」

「物件は大学まで徒歩5分、ご飯は俺の特製メニュー、2DKで俺とルームシェア」

「最後の条件何それ最悪じゃないか」

心底嫌そうな顔で三郎を見つめてみたが、当の本人は楽しそうに口角をあげている。あ、この顔はよく知っている。自分の悪だくみが十中八九成功すると確信している時の顔だ。そこまで分かっているのに悔しいことに理由までは分からない。

「ま、考えてみたらいいさ」

前向きにな、と付け足しながらふふっと声をだして笑った。いつものにやついた笑いではなく無邪気な笑顔だった。その顔になぜだか僕は安堵した。ここ最近三郎がこうやって笑うのを見ていなかった気がしたから。

「不安だったの?」

気付いたら言葉が零れ落ちていた。びっくりしたような顔をした後、目を細め三郎はつぶやいた。

「ああ、よく分かったね」

「お前は臆病で変化をひどく嫌うから」

「巻き込んで申し訳ないな」

申し訳ない、と口で言うわりにさっき僕と住むということを楽しそうに話していたくせに勝手な奴だ。三郎の中で僕との関係が「変わらないもの」の象徴なのか、そう思った。

「三郎、お前も変わりたいって思ったらいつでも変われるんだよ。自分次第だよ。」


「そうだな、俺が変わりたいと思う時が来るといいな」




変わることと変わらないこと



どっちだって大切なこと





でもどちらかだけでは前へ進めない






「あ、それでどうして僕はお前とルームシェアが決定してるの?」

「直に分かるさ」


0403

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